◆甘宴夜 - ゆまっこの風

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◆甘宴夜


処は島原、角屋。
今宵は隊士たちの日頃のはたらきを労って宴会が開かれていた。
一番広い部屋を局長の近藤自ら貸し切ったその会は店の者や呼ばれた芸者たちだけでは収拾がつかなくなるほどの騒ぎで、そんな中一番年若であるセイは料理の注文に走ったり上役に酒を継ぎに行ったりと休む間もなく動き回っていた。

そんなセイを総司は目で追いかけながらクスリと苦笑する。
普段の生活や隊務でも一番忙しそうに働き回っているのはいつもセイで『労う会』なのであれば一番労ってやらねばならないのはセイなのに。
そんなことを思いながら総司はちょうど空いた皿を片付けにきた店の者に、すみません、と声をかける。
総司の耳打ちに、承知しました、と返事をして部屋を出ていく女の先にいたセイと目が合って総司は、こっちこっち、と手招きをする。
「何ですか?お酒ですか?」
パタパタと走ってやってきたセイの笑顔を見て総司も微笑みながらセイの頭を撫でる。
「貴女も少し休みなさいな。」
総司の優しい言葉にセイは微笑みを返すと
「いいんです。動いている方が性に合っていますから。」
そう言って腰を上げ、神谷~と呼ばれる先へと走っていった。

総司がセイに注がれた酒を飲みながら皆の様子を見てみればどこもかしこも『神谷』『神谷』とセイを呼びつけては何やら嬉しそうにしている。
セイはやっぱり何処にいても人気者で彼女を側に置いておきたい気持ちは総司にも嫌というほど分かるけれど、皆少しセイに甘えすぎではないか。
セイを好き勝手に呼びつけては酒を注がせたりあわよくば手を引っ張り肩を寄せるものまでいるではないか。
そんな様子を端から見ていた総司はなんとなく胸の辺りがモヤモヤとしてきて、ついに
「神谷さん!」
大きな声でセイを呼びつけると走ってきたセイの手を取って部屋の外へ出ていった。
「せ、先生?どうされたんですか?」
何だか怒っているような総司の様子にセイは心配そうな声を出す。
また何か失礼な事を知らぬ間にやっていたのだろうか。
不安そうに自分の顔を覗きこむセイに総司は抱き締めたい気持ちをグッと押さえて拳を握ると
「帰りますよ。」
セイの顔も見ずに小さな手を引っ張り店を後にした。


引きずられるようにして屯所に戻ると見張りの門番くらいしか残っていなかったそこは、いつもの賑やかさからは想像できないくらい、しん、としている。
いつも過ごしている一番隊の部屋まで戻ると総司が漸くセイの手を離した。
「先生、もう。どうされたんですか?」
勢いよく引っ張られて総司の速い足どりにやっとのことで着いてきたセイは息を整えながら問いかける。
すると総司は店を出るときに受け取っていた包みをドンと畳に置くと
「さ、貴女もゆっくり食べなさい。」
そう言ってニコリと笑った。
「え?」
セイが驚きながら目の前にある包みを開けると先ほど並んでいたような料理が重箱に詰められている。
「さっき店の者に適当に詰めておくように頼んだんです。」
「え、何でですか?」
セイが首を傾げると総司は小さく溜め息を付いた。
「貴女働きっぱなしで何も食べていないでしょう?今日は隊士を労う会なんですから。貴女も労ってもらわなきゃ困るんですよ。」
総司のその言葉と笑顔にそんな風に思ってもらえただけでお腹いっぱいなくらい幸せだ、とセイは涙を浮かべる。
「沖田先生...ありがとうございます。」
セイが溢れそうになった涙を拭っていると総司が重箱から煮物を箸で掴みセイの口元へ持っていった。
「え?いや、あの自分で食べれますから...」
セイが顔を真っ赤にして首を振ると総司が、いいからいいから、と煮物をセイの唇へ押し付ける。
困ったセイが困った顔をしながら恐る恐る総司の箸から煮物を口に含むとそれを見た総司が満足そうに微笑んだ。
その笑顔をチラと見ながらセイはモグモグと口を動かし、美味しい、と呟く。
「ほら、もっと食べて。」
「あ、後は自分で食べますから!」
慌てるセイを見てケラケラ笑いながら総司も煮物を口にする。
ちょっと待っててください、とセイが賄いから酒を貰ってくると静かな部屋で二人だけの宴会が始まるはず、だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

二人だけの楽しい宴会のはずが雲行きが怪しくなってきたのは総司の何の気もなしに放った一言だった。
「だいたい貴女はまだ子どもなんだから。」
ニコニコとセイの頭を満足そうに撫でながらそう言う総司はかなり酔っている。
角屋でもかなり飲まされていたし屯所に帰って来てからも安心したのか自ら手酌で次から次へと酒を注いで飲んでいたのだから仕方がない。
セイは総司の言葉にムッとしながら総司の杯を少し乱暴に取り上げて
「酔っ払いに言われたくありません。」
そう言うと取り上げた杯に残っていた酒を一気に飲み干した。
総司から見ればセイだってかなり酔っ払っている。
頬を赤らめて少し涙目になりながら自分の方を見る姿が総司の目には妙に色っぽくみえて堪らない。
そういえば...と最近あった事件を思い出すと総司は、ふん、とセイから杯を奪い返してトクトクと酒を継ぎまたもや一気に飲み干した。
「貴女、この前も他の隊の男に言い寄られていたじゃないですか。今日だって皆貴女のことそういう目で見ていましたよ。大体危機感が足りないんですよ。男ってものを分かっていなさすぎる。本当にお子様なんだから。」
ふふん、と勝ち誇ったような顔をした総司を見てセイはカチン、とくる。
「あの人はきちんとお断りしました!先生にはなにも迷惑かけてないじゃないですか!大体先生だって女のこと、何もわかってないくせにそんなこと言われたくないです!」
ぷうっと頬を膨らませて怒るその姿はどう見てもお子様だ、と総司は笑いたくなってしまう。
ぐっと笑いを堪えながら総司は空いた杯に酒を継ぐと、はい、とセイに手渡した。
「私は貴女より五つも年上なんですよ?女の人のことくらい分かってますよ。」
本当は何も知らないけど、と心の中で続けながら総司はニコリと微笑む。
セイはますますムッとして総司から杯を受けとるとぐっと飲み干し勢いよく言い放った。
「私だって男くらい知ってます!あ、そうですよ!く、口付けだって、したことあります!」
セイの意外な一言に総司は思わず持っていた徳利を落としそうになる。
しかし必死になって捲し立てるセイの姿を見て、はいはい、と余裕の表情を浮かべると
「口付けね。はいはい。どうせ大好きな兄上のほっぺにちゆ、とかでしょ。」
図星を指されたセイは大きな瞳が落ちそうになるくらい目を見開くと言葉に詰まる。
セイはすぐに顔に出てしまうので嘘がつけないのだ。
それでも必死に取り繕おうとしたセイは、違います!と声を荒げる。
「く、口付けくらい、したことあります...!」
セイはそう言うと突然総司の襟元にしがみつき、噛み付くように総司の唇と自分のそれを重ねた。
「!」
驚く総司の顔を見て、してやったり、と嬉しそうに笑うセイ。
「ほらね、慣れたもんでしょう?」
得意気にそう言うセイを総司は真っ赤な顔で呆然と見つめる。
「...何ですか、先生。そんな真っ赤な顔をしちゃって、先生の方が女に慣れていないんではないんですか?」
セイのその言葉に今度は総司の方がカチンときてしまう。
「神谷さん、やっぱりお子様ですね...そんなもの、口付けなんて言わないんですよ...」
総司は低い声で呟くとジリジリとセイとの間を詰める。
「な、何でですか..」
反射的に後ろに逃れようと下がったセイの腕を総司はグッと掴み自分の腕の中に閉じ込めると、そのまま乱暴に唇を重ねた。
「んんっ...!」
セイが驚いてジタバタと暴れようとするのを押さえ込みながら総司はグッとセイの顎を引き口内に舌を差し入れる。
ビクリと跳ねるセイには構わずそのまま逃げ回る舌を追いかけ、絡ませた。
くちゅ、という水音と合わせた唇の隙間から時折漏れる吐息だけがしん、とした部屋に響く。
勢いで重ねた唇の心地よさに気がつけば夢中で口付けを続けてしまって、セイの頬を押さえていた自分の掌に熱い雫が落ちてきて漸く我に返った総司が慌てて唇を放した。
「あ...神谷さん...ごめんなさい...泣かないで...」
いつの間にか涙を流していたセイの涙を総司は慌てて優しくぬぐう。
つい気持ちが昂ってしまってセイの気持ちなんてお構いなしに彼女を求めてしまった事を今更ながら後悔する。
「神谷さん、本当にごめんなさい..嫌でしたよね、好いてもいない人に、こんな...」
「違うんです...!」
セイは首を横に振ると泣きながら総司にしがみつく。
「先生...すごく慣れているから...本当に他の女の人と、こういうこと沢山してきたのかな、と思ったら...悲しくて...」
泣きながらそう訴えるセイに総司は心臓が飛び出るほど驚いてしまった。
口付けなんてしたのは総司ももちろん初めてで、慣れているわけがあるはずがない。
しかし総司とて一応年頃の男子な訳だし周りには経験豊富な兄分がたくさんいる。そのなかにいれば嫌でも耳年増になっていき知識だけは身に付くものなのだ。
ただ『慣れている』とセイが感じてくれたことは、セイも気持ちいい、と感じてくれたのではないか、と勝手に想像して少し嬉しくなってしまう。
総司はまだ泣いているセイの身体を抱き寄せ自分の膝の上に乗せる。
そしてぎゅっと優しく抱き締めて
「おばかさんですねぇ...こんなことしたいと思うのは、貴女にだけですよ...」
そっと耳元で囁き髪を撫でた。
すん、と鼻を啜りながらセイが総司を見上げる。
「...本当ですか...?」
「...本当です。」
総司は涙が一杯に溜まったその目元にそっと口付けると、そのままもう一度紅く色付く柔らかな唇に己のそれを重ねた。
唇ごと食べてしまいたいほどセイが愛しくて、もちろん酒の力を借りてこうなってしまっていることも分かっているのだけれど、それでも自分の溢れてしまった想いは止められない。
今度はそっとセイの反応を確かめるように優しく舌を絡めていくとセイも遠慮がちに舌を動かしてきてくれた。
そのままぎこちない仕草が可愛くて、嬉しくて総司は小さな身体を抱き締める力を強める。
「ん...は、ぁ...」
口付けの合間から漏れる吐息は先程より漏れる熱を帯びていて二人の身体を熱くさせる。
総司の掌が段々と下に降りてきて、袴の横手から手を差し入れるとセイの柔らかな太腿をそっと撫でた。
セイの身体がピクリと震える。
それでも抵抗せずに、それどころか先程よりも積極的に舌を絡めてくるセイに総司の手はさらに伸びていく。
下帯に挟んでいた着物の裾を引っ張りその隙間から手を忍び込ませるとそのまま艶々とした臀部を柔らかく撫でていく。
総司の厭らしい手つきに、段々と荒くなる呼吸に、セイは流石に慌てて唇を離すと
「せんせ...これ以上は、もう、誰か帰って来てしまいますし..」
セイは自分の袴の中に入れている総司の腕を引っ張ろうとするが力では敵う相手ではない。
抵抗するセイの声でさえ今の総司に甘く聞こえてしまって、もう一度唇を重ねるとそのままセイをその場に押し倒した。
袴の中に入れていた手を今度はセイの襟元に持っていく。
ぐい、と大きく胸元をはだけさせると晒に巻かれた柔らかな乳房をそっと大きな掌で包む。
「ん...や、もうせんせ...だめ...!」
「はは...ごめんなさい、もう、止められない...」
総司は甘えた声で囁くとセイの真っ白な肌に唇を移していった。


※※※※※※※※※※※※※※※※


「なあ、なんで沖田先生、神谷の布団で寝てるんだよ?」
島原からチラホラ帰ってきた二、三人の隊士が不思議そうに隊部屋を覗いている。
「知りません。急に屯所に連れて帰ったくせに私がお酒を取りに行っている間に一人で寝ちゃったんです。」
二人で宴会だ、と言っていたのにセイが賄いから酒をもらって部屋に戻ると総司は勝手にセイの布団を敷いて寝てしまった。
「でもなんだか妙に沖田先生の顔、嬉しそうだよなぁ。」
「神谷の夢でも見てるんじゃねえの?」
「やめてください。いい迷惑です。」
一番隊の冷やかしにセイは頬を膨らませながら一人で徳利の酒を飲み干す。
セイがちら、と総司の顔を見れば何やらニヤニヤしながら寝言を呟いている。
一番隊の皆と共にその寝言に耳を澄ましてみると
「...かみやさぁん...だいすきですよぅ...」
「ほら、やっぱり神谷の夢見てんだよ。俺ら島原に戻るからよ、一緒に寝てやれよ。」
「な、何言ってるんですか!皆さんも早く寝てくださいってば...!ちょっと...!」
セイの止める声も聞かずに一番隊の皆はゾロゾロと部屋を後にする。
もう、困ったなあ、と取り敢えず肩から落ちた総司の布団を直してやると寝ていたと思っていた総司がセイの腕を強く引いた。
「ひゃっ!先生、起きてらしたんですか?」
「今さっき目覚めました。すごくいい夢見てたんです。続き、一緒に見ませんか...?」
未だ半分夢の中の総司に無理やり布団の中に引っ張り入れられ、あれよあれよという間に着物を脱がされるセイ。
「やっ、先生何するんですか...あ、ん、ちょっと...まって...」
総司が抵抗するセイの唇を己のそれで塞ぐとあっという間にセイの身体の力が抜ける。
「せんせ..もう、どんな夢、見たんですか....」
セイの声にも甘さが含まれてきて総司は自分の袴を脱ぎながらクスリと笑う。
「とっても、気持ちよくて、いい夢です....」
そしてそのまま二人きりの広い隊部屋で夢の続きを存分に堪能したのであった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※
「甘い話書きたい(ずっと放置)」→「可愛い喧嘩させちゃえ」→「そういや夢オチ書いてみたかった」→「夢オチじゃ可哀想だから続きさせちゃえ」
という流れに流れまくったこのお話です。題名もさっぱり思い浮かばず色んな漢字重ねてみました。
ここまで書きながら内容が変化するのは中々ないですね~これはこれで楽しかったです(*^^*)
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コメント

No title

ラブラブからの、得意の寸止め→と思ったら夢オチ→と思ったら現実になって寸止めw
と、まー坊さまの掌で転がされるようなお話しでした。(笑)
甘々でいいですねえ。
二人がこんなにラブラブなのって本誌じゃ久しくないですもんね。
最近ちゅーすらしてないし・・・(病気だからやっぱりまずいのかな)
あー二人には幸せになってほしい!!
そして新巻楽しみです♪

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