◆花かげ - ゆまっこの風

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◆花かげ


ふ、と瞼の裏に思い浮かんだのは満開に咲き誇るたくさんの桜の木。
ここはきっと貴女と最初に出会った市ヶ谷八幡。

暖かだけれど少し強い春の風が吹いて、まるで貴女の頬のように淡い薄紅色をした花びらが舞い散っていく。
桜吹雪の花かげの向こうに佇むのは、きっと。

私の声に振り向く貴女はいつもの優しい笑顔。

もう一度、一緒に見れたなら。
いや。一度だけでなくて。
あの桜の木の下で、何度も何度でも貴女と春を越していけたら。




※※※※※※※※※※※※※※※※※

しん、と冷える部屋の中でセイは一人愛しい人の帰りを待つ。
夕方から降り始めた雪は勢いを増して屯所の庭先を白く色付けていた。
今宵は総司率いる一番隊は夜番。
屯所へ帰ってくるまではあと半刻はかかるだろうか。
セイが一番隊から外されて近藤の小姓になってから、一番隊が夜番の日はこうして眠れないのだ。
総司の腕を信じていないわけではないけれど、いつ何があるか分からないこの時勢。
誰に狙われてもおかしくない立場の総司の身を心配するのはセイだけではないはずだ。

妾宅に泊まりに行き留守にしている近藤の部屋で一応布団は敷いたものの横になることが出来ずにセイは襖を開けて空を見上げる。
物音一つしない深夜、降り積もる雪の音がやけに耳に響く。
さすがに身体も冷えてきてセイが小さなくしゃみを一つした時、玄関から物音が聞こえた。
一番隊の帰隊にしては少し早い。
不思議に思いながらもセイが廊下を歩いていくと一番隊の伍長である相田と山口が総司の身体を支えながら歩いてきた。
「沖田先生!?」
セイが慌てて駆け寄ると総司が苦しそうな笑顔をみせる。
「神谷さん、まだ起きていたんですか...?」
「そんなことよりも、どうされたんですか?!まさか何処かお怪我でも...!?」
暗闇でも分かるほど青ざめた顔のセイに総司が小さく首を振る。
「沖田先生、熱があるの隠して巡察出掛けたんだよ。今になって熱が上がってきてさ。」
気付かなくてすみません、と相田が頭を下げると総司が、はは、と力なく笑った。
「お熱、ですか?とりあえず、近藤先生のお部屋に...」
相田たちにそのまま近藤の部屋まで総司を連れてきてもらうと敷いておいたセイの布団に総司を寝かせ、
「後は私が看病しますので、相田さんたちはお休みください。お疲れ様でした。」
そう言って相田たちを部屋へ帰した。
セイが総司の額を触ってみるとかなり熱い。
横になってすぐに眠りについたようで苦しそうな寝息が聞こえる。
セイは急いで手拭いと桶を用意して外の井戸へ向かった。

暗闇の中、雪が積もる庭を歩くとキュッキュッと固い音がする。
足袋から雪がじんわり染みてきてセイの足先を冷やしていく。

冷たい水をたっぷり汲んで急いで部屋に戻ると汗だくになった総司が掛け布団を剥いでうんうん唸っていた。
汗をかいているなら大丈夫だろう、とセイは総司の羽織と袴を脱がしていく。尻はしょりしてある着物の裾をきちんと直し帯を少し緩めると着物から見える部分だけでも、と濡らした手拭いで汗を拭き、それを綺麗に洗い直すとまだまだ熱い額に乗せた。
ひんやりとした感触が気持ちよかったのか総司の表情少しだけ緩みセイはホッと胸を撫で下ろす。
セイは汗で張り付いた総司の癖のある前髪を優しくかきあげると総司の傍に横になりトントン、と子どもをあやすように背中を撫でた。
夢でも見ているのかふ、と総司が微笑みそれを見たセイも安心したように微笑むといつの間にか一緒になって眠ってしまった。


セイが目を覚ますとちょうど起床の太鼓が鳴った。
隣を見ると総司は昨晩よりも大分表情が楽そうだ。
そっと手拭いを取って額を触ってみると熱も昨日よりは大分下がっている。

セイは手拭いを濯いでもう一度総司の額に載せると、さっと朝の身支度を済ませ賄い場へ向かった。

セイが賄い場から白湯とお粥をもらって帰ってくると総司が目を覚まして起き上がっていた。
「沖田先生、お加減はいかがですか?」
「はい。もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」
「何を仰っているんですか。副長から今日は一日休むようお達しが出ましたよ。」
「もう大丈夫なのになぁ...」

何処か寂しそうな総司にセイは白湯を差し出す。
「汗たくさんかかれてましたから。とりあえず、これを飲んでお着替えをなさってください。」
セイは途中一番隊の部屋から持ってきた総司の着物を差し出す。
はい、と総司は素直に白湯を飲み干すとよいしょ、と立ち上がり着物を脱ぎ始めた。
「背中、拭きますね。」
セイはそう言うと総司の背に回り濯いだ手拭いで背中の汗を拭き取っていく。
「はあ。気持ちいい。」
ふう、と溜め息を吐きながら嬉しそうに呟く総司。
元気そうな様子にセイもつられて微笑むと
「前はご自分で吹いてくださいね。」
手拭いを総司に手渡した。
総司が身体を拭いている間にセイは総司が脱いだ着物を畳む。
てきぱきと自分の世話をするセイの姿に総司はクスリと笑うと、そういえば、と話し出した。
「夢を見たんです。」
「どんな夢ですか?」
セイは聞き返しながら昨日の夜の総司の嬉しそうな寝顔を思い出す。
きっと、嬉しい夢だったのだろうな。
セイがそう思っていると
「神谷さんが出てきてね。」
「えっ?」
まさか自分が総司の夢に出てくるなど思ってもみなかったセイは驚いて総司の方を振りかえる。
「あれは...きっと市ヶ谷八幡様ですね。神谷さんと初めて出会った。」
「市ヶ谷八幡...」
「桜が綺麗で..その桜の木の下で神谷さんが....」
「私が?」
そこで黙ってしまった総司の顔をセイが覗きこむと何だか顔が赤い気がする。
また熱が上がってきてしまったのだろうか、とセイは慌てて新しい着物を総司の肩からかけるとてきぱきと裾を整え帯を手渡した。
「さ、先生お粥を召し上がって暫くお休みください。」
総司は赤い顔のまま粥を受けとるとフーフーと冷ましながら口へ運ぶ。
「これ、神谷さんが作ってくれたんですか?」
ちょびちょびと粥を口に入れながら総司が呟く。
「いえ。賄いさんに頼みましたけど。」
「...神谷さんの作ったのが食べたいなぁ...。」
まるで子どもみたいに頬を膨らませながらそう言う総司が何だかかわいらしくて、でもそんなことを言って貰えるのが擽ったくて、セイは頬を染めながら総司から目をそらす。
「な、何を仰っているんですか。」
「だって、神谷さんの作ったお粥を食べればすぐに元気になれそうな気がするんです。」
ニコリと赤子のような笑顔を向ける総司。
セイは恥ずかしさと嬉しさから俯きながら小さく答える。
「そ、そんなに言うなら昼はお作りします...」
セイの言葉に総司はやったぁ、と嬉しそうに笑った。

総司が粥を食べ終えるととりあえず手元にあった熱冷ましの薬を飲ませ横になるように促す。
「今日は一日大人しく横になっていてくださいね。」
まるで母親のようにセイから諭され総司も子どもに戻ったような気分で、はあい、と返事をする。
そしてゴロンと横になると食器の片付けをしようと席を立ち上がろうとするセイの腕を掴みグイ、と引っ張った。
「眠るまで昨日みたいにトントンってしてくださいよぅ。」
すっかり甘えん坊に戻ってしまった総司にセイは困ったような笑顔を向けながら、仕方がないですね、と隣に横になる。
そして布団をしっかりと肩までかけ直してやると、総司の背に腕を回し、トントン、と優しく撫で始めた。
安心した表情で目を瞑る総司の顔をぼんやりと見ていると口元にご飯粒がついている。
これでは本物の子どもみたいだ、とセイが思わず吹き出すと総司が、何ですか、と目を開けた。
「先生...ご飯粒がついてますよ。」
クスクスと笑うセイが可愛くて、でも笑われているのが何だか悔しくて総司は
「笑ってないで取ってくださいよ。」
とプイと頬を膨らませた。
セイはまるで母親にでもなった気分でそっと口元にくっついていたご飯粒を掴むと、ほら、と総司に見せる。
「先生ってば、子どもみたい..」
クスクス笑いが止まらないセイにムッとした総司はセイが見せてきた手を掴むとご飯粒がついているその細い指をパクリとくわえ、チロリと舐めあげた。
舌が指を這うゾクリとした感覚にセイが身を固める。
驚いて総司の顔を見ると先程の甘えん坊の幼い顔から一変した獣のような瞳をした男がそこにいてセイは思わず掴まれている手を引くが総司は離してくれない。
「せ、せんせい...?」
「...子どもなんかじゃありませんから。」
じっと熱い瞳で見つめられたセイは恥ずかしいのに何故か目を反らすことが出来ずにその瞳を見つめ返す。
「わ、分かりましたから...手を離してください...」
セイの言葉に総司は首を横に振る。
そして手を離すどころか布団から両手を出すとセイの身体を引き寄せぎゅっと抱き締めた。
「せんせい...!ちょっと..!」
バタバタと暴れるセイに構わず総司は足まで使ってセイの動きを封じ込めると小さな声で夢の続きを話し出す。
「神谷さんがね...たくさん子どもを連れてたんですよ。」
「へっ?」
「それでね、その子どもたちが私のことを見つけて、父上って呼ぶんです。」
「...」

また貴女と市ヶ谷八幡に行けるときは、そうなった時なのかな、と思えて。

時代が落ち着いたら、一緒に江戸に帰りませんか。
そして、ずっと、何度でもあの美しい桜を毎年、毎年愛でに行きませんか。


そんな約束の出来ない未来を語ることは、今の自分には、出来ないけれどー。


「神谷さん。」
「...はい...。」
「熱が下がったら、一緒に雪だるまを作りませんか?」

今の自分に出来る約束はこんなもの。
すぐ傍にある少し先の未来。
本当はそれさえも叶えられるか分からないけれど。

それでも、このくらいは願ってもいいのかな。

「はい、勿論です!」
セイが笑顔で答える。
総司もにこりと笑ってセイを抱き締めていた力を少し緩めた。
少しだけ二人の間に隙間が出来てそのせいで互いの顔がすぐ近くに向かい合う。

二人は無言で見つめ合いながらそっと唇を近付ける。
嫌なわけではないのに、無意識に構えてしまって少しずつ遠ざかるセイの頬を総司は大きな掌で優しく包みこむと、そっと唇を重ねた。
ゆっくりと唇を離した二人の頬は、総司が夢で見たときのように淡い薄紅色をしていて涙が出そうになる。

どうか、貴女だけにでも暖かな未来をー。


しん、とした部屋に雪解けの雫の音だけが静かに響いた。







※※※※※※※※※※※※※

萌え、萌えが欲しいんだよー!と沖セイにあっというまに帰って来た管理人です。私今頭がパンクしそうなくらい忙しくて!そんなときこそ二次でしょ、二次。私はこうして書くことがストレス解消になるのです。あんまり萌え部分ないですけど。でもやっぱりいいよね~沖セイ(*´∀`)すみません、テンパってておかしな後書きで。雑記や過去作品にもコメントありがとうございました。久しぶりの作品投下。少しでも楽しんで頂けたら幸いです(>_<)いつも読んでくださり本当にありがとうございます!
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コメント

No title

書くことがストレス解消っていいですね!
私はもっぱら読むことです(汗)

未来の約束ができないって切ない(ToT)
現代なら当たり前にできることなのになあ・・・
発病してなくて幸せな時期でも、沖田総司(もしくは新選組)のお話ってどこか切ないですね。
もちろん末路を知っているし、それでなくても明日をも知れない、というのが本当だった時代だし。
だからこそ毎日一生懸命生きてたんでしょうね。

ちなみに、私はこちらのブログで創作小説を公開されてもいいと思いますけど・・・。
カテゴリとタイトルではっきりわかるようにしておけばいいのではないかしら?
そちらの総司も楽しみにしています!

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