☆つぐない

☆つぐない 1

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私たちは、どれほどの罪を犯してしまったのでしょうか。
それは何度生まれ変わっても、許されないほどの罪だったのでしょうか。


それなのに。

私たちがもう一度、出会えた意味は


あるのでしょうか。



※※※※※※※※※※※※※※


セイが初めて京都の地に降り立ったのは17の時だった。
今まで住んでいた東京で先に始まった大戦の戦況が悪くなってきて、次々に疎開の範囲が拡がってきた頃。
本来ならばセイの年齢であれば女子も勤労に出されたのであろう。
しかし父親が医師であるセイは看護師の資格はまだ持っていなかったが、それなりに知識と技術があり京都で診療所を営んでいる叔父の所へ手伝いに出されたのだ。
手伝い、とは名ばかりの疎開であることに違いなかった。
医師である父は今までは戦地に出向かずにすんでいたが遂にその時がやってきて来月頭に満州へ渡ることが決定していた。
次の働き手としてセイが連れていかれることは間違いない。
戦地に出向かなくとも女子が働く工場のような所では空襲の目標とされることも多い。

母はそれを避けたくてセイを京都へ送ったのだ。

『お父さんを送り出したらすぐにお母さんも行くからね。』

東京駅で母はそう言って笑顔で送り出してくれた。
まさかその時の言葉が、その笑顔が、最期のものになるだなんてその時はこれっぽっちも思わなかった。

今考えれば戦争なんてそんなものなのに。
一瞬にしてすべてを、奪ってしまうのに。


戦禍の中でも人々はちゃんと生きていて、笑顔がひとつもない生活を送っていたわけではない。
京都へ向かう汽車の中でも子どもたちは笑い、その笑顔につられて大人たちも笑い、まるで何処かに旅行にでも行くのではないか、とも見間違うような家族もいた。
セイもこの時勢に親と離れる不安こそあったものの、初めて訪れる土地に少しの期待も感じていた。


しかし、京都の土地に降り立った瞬間、期待は不安に変わった。
汽車に乗っている間は何ともなかったのに、改札を出て一歩駅舎の外へ足を踏み出した瞬間。
経験したことのない眩暈と気分の悪さが襲ってきて、思わずその場に座り込んでしまったのだ。

今まで感じたことのない動悸と吐き気に、このまま死んでしまうのではないか、という恐怖に胸を押さえながらうずくまっていると心配してくれたのだろう、後ろから見知らぬ男性に声をかけられた。

「大丈夫ですか?」

穏やかなその声にセイが真っ青な顔で振り向くと、そこには端正な顔立ちをした上品な雰囲気の男性が立っている。
とても大丈夫、とは言えない顔色でセイが無理やり笑顔を作ろうとすると、男性は、ちょっと失礼、と低い声で呟きセイを軽々と横抱きにして近くのベンチまで運んで寝かせてくれた。
あまりの気分の悪さに遠慮することも出来ずにそのまま横になっていると男性はセイの荷物を運んで来てくれ、そして何処で濡らしてきたのか水を湿らせたハンカチをセイの額に当てるともう一度
「大丈夫ですか?」
と顔を覗きこんできた。
額の冷たいハンカチの感触と暫く横になれたことで少し気分が良くなってきたセイはゆっくりと起き上がり
「少し良くなりました。本当にありがとうございました。」
と頭を下げる。
男性はにこりと安心したように微笑むとそっとセイの手首をもって脈を取り始めた。
「あの、お医者様ですか?」
あまりの手際の良さにセイが尋ねると男性は、はい、と頷く。
「普段は東京の診療所で働いているのですがたまに大学の手伝いで京都へ来るんです。」
そう言いながら男性は、よし大丈夫そうだ、とセイの手を離した。
「よくこういう発作があるんですか?」
男性の問いかけにセイは慌てて首を振る。
「生まれて初めてです!子どもの頃から病気知らずなんですよ。旅の疲れでしょうか...」
それにしても汽車に乗っている間も降りてからも異変はなかったのに、と何処か腑に落ちない表情のセイに男性は、うーん、と少し考え込む。
そして一つ小さく頷くと背広の中から紙とペンを取り出して何やら書き出した。
そしてその紙を破るとセイに手渡す。
「もしも、同じ症状がまた起きたら連絡を頂けませんか?」
「え?」
「...実は。弟もあなたと同じような症状で倒れた事があるんです。場所も同じでした。何か原因が分かれば対処のしようがあると思うのですが検査を重ねた結果なんともありませんでした。でも、何度京都へ来ても起こるんです。発作が。」
男性の困ったような、少し辛そうな表情を見てこの人の弟は自分よりも遥かに辛い発作が起きるのかもしれない、とセイは感じた。
「そう、ですか...分かりました。私に何か力になれることがありましたら連絡させていただきます。」
セイの言葉に、ありがとう、と微笑む男性の顔を改めて見ると、なんて綺麗な顔立ちの人だろう、と思わず溜め息が出てしまう。
こんなに綺麗な顔立ちでお医者様だなんて女の人が放っておかないだろうな、と色恋に興味がないセイでさえも考えてしまうほどだ。
「ところで貴女はどちらまで?」
セイの顔色が戻ってきたことに安堵した様子で男性が問いかける。
図々しいかな、と思いつつお医者様なら叔父の診療所の場所も知っているかもしれない、と母から渡された住所が記された紙を鞄から取り出すと男性に手渡した。
「ああ!松本先生ならよく知っていますよ!松本先生の姪っ子さんでしたか。道理で何処かでお見かけしたことがあると思っていたんです。先生のお宅に可愛らしい写真が飾ってありました。」
男性は嬉しそうにそう言うと、さっとセイの荷物を持ち、
「お送りしますよ。」
と微笑んだ。

駅から叔父の家までは歩いて20分ほどでその間セイたちは初めて出会ったとは思えないほど会話が弾んだ。
診療所の前まで送ってもらうと、お茶でもいかがですか、と勧めるセイの言葉を男性は、仕事があるから、とやんわりと断り二人は別れた。
いい人に助けてもらって本当に良かった、とセイは男性が見えなくなるまで見送るとふ、とさっき渡された紙を思い出して取り出してみる。
そこには東京の住所と名前が記されていた。
セイはその柔らかな文字をなぞりながら名前を読み上げる。

「土方、歳三さま...。」



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新シリーズ

これが例の新シリーズですね!
最近忙しくてどうも疲れがたまっているので、読むと癒されます(T_T)
いつもありがとうございます。

弟は…あの人ですね!?
顔は兄に似ているんだろうかw
某二次サイトさんで1度だけ戦時に転生する設定を読んだことがありますが、すごく泣きました!
まー坊さまのお話はどんな展開になっていくんでしょうか。とっても楽しみにしています♪
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