☆つぐない

☆つぐない 2

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【拝啓 土方様

菊香る季節となりました。如何お過ごしでしょうか。
先日は親切にしていただき本当にありがとうございました。
その後弟様の体調はいかがでしょうか。
私はその後同じような症状が何度かありました。
確か、診療所から駅に向かう本願寺の辺りと鴨川にかかる三条大橋を歩いていた時だったと思います。
幸いにも通りすがりの方にお声をかけていただき、直ぐに発作も収まりましたのでその後は特にかわりなく過ごしております。
ところで叔父に土方様の事を話した所、土方様は大変優秀なお医者様だと伺いました。私には難しくて理解出来ませんでしたが様々な病気の研究をされているのですね。
私の経験が何か土方様のお仕事や弟様の今後の生活に何かお役にたてれば良いのですが。
今のところ自分でも原因は分かりません。
ただ京都へ来てから常に息苦しい様な、胸が苦しいような感覚に陥っています。
ただその感覚が身体的な病から来るものではないような気がするのです。
何か精神的な物、上手くは説明出来ないのですが、『懐かしい』という言葉が合っているのかもしれません。
でもそれは、決して暖かい思い出を思い出すような『懐かしさ』ではなくて、むしろ苦しいような、まるで胸が張り裂けそうな、叫びたくなるような『懐かしさ』なのです。
その感情を強く感じる時に以前のような発作が起きるのです。
まるで何かを思い出すことを制止するように。
これはあくまで私個人の思いや考えであって、病理的に何かを証明するには心許ない話ではあると思うのですが土方様にはきちんと報告しておいたほうが弟様にとっても何か助けになるかと思い、筆をとらせていててだきました。

これから寒い日が続きますね。
土方様も、弟様も、お身体を大事にされてください。
此方にいらっしゃる際には是非叔父の家にもお立ち寄りください。

敬具 神谷 セイ】



土方がセイと京都で別れてから一月ほどたったある日。
何時もは自分よりも早くに起きて朝食の準備をしている弟が台所にいないことに少しの不安を覚えた土方が新聞を取りに玄関へ向かうと、そこで踞っている弟を見つけた。
「おい!総司、大丈夫か?!」
またあの発作が起きたのかと思い、土方は慌てて弟の名を呼び肩を揺さぶる。
「ああ...歳三さん...大丈夫です。おはようございます。」
未だ踞っている弟の肩に触れた瞬間、土方は弟が発作で苦しんでいるわけではないことが直ぐに分かった。
考えてみれば東京にいるときに発作が起きたことは一度もない。
必ず『京都の土地』に足を一歩踏み入れた瞬間に、あの発作は起きるのだ。

「今、朝食の準備をしますね。」
ゆっくりと立ち上がり家の中に戻る弟、総司の背中を土方は見つめながら言い様のない不安にかられる。

総司は、発作が起きたのではない。

ただ、泣いていたのだ。



土方が部屋に戻ると総司はもう既に作っていた味噌汁を温めていた。
机の上に封を切られた手紙を見つけて土方はそれを手に取る。
それに気付いた総司は慌てて振り向くと、すみません、と頭を下げた。
「その手紙、歳三さん宛てだったのに勝手に開けてしまったんです。あの、裏の差出人の住所が京都だったから...」
総司に言われて封筒の裏を見ると、綺麗な整った文字で京都の住所と『神谷セイ』という名前が記してあった。
土方は一目で以前京都で助けた少女だと確信する。
「いや、いいんだ。どうせお前にも読んでもらおうと思っていたから。」
そうですか、とホッとしたように笑う総司が二人分の味噌汁とご飯を運んで席につくと質素な朝食の時間が始まった。

一通り食事を終えたところで土方が口を開く。
「ところで総司、お前さっき何で泣いてたんだ?」
土方の言葉に総司は一瞬ビクリと身体を固めると
「やっぱり気付いてました?」
と、乾いた笑いを放つ。
そして、空いた食器を流しに下げながら総司は土方の方を見ずに話始めた。
「...名前が...」
「名前?」
「...はい。『神谷セイ』という名前を見たときに、いてもたってもいられなくなって...」
「お前、知り合いなのか?」
土方の驚いたような声に、総司は首を横に振る。
「聞いたことも見たこともありません。...なのに...まるで、あの時の発作のような。」
ふう、と大きく息をつきながら総司はそっと胸を押さえる。
東京で発作が起きることはない、という自信は何故かあるがあの時の苦しさを思い出すだけで今も眩暈が襲ってくるような感覚に陥るのだ。
「それで、思わず封を開けてしまって、ごめんなさい。」
「いや、だからそれはもういい。」
総司は土方の心配そうな眼差しに少し困ったように微笑むと言葉を続ける。
「手紙を読んで、その、神谷さんの発作が起きた時の状況や感情が自分とよく似ていて...」
いや、似ているどころではない。
殆ど同じなのだ。
『苦しいような、まるで胸が張り裂けそうな、叫びたくなるような懐かしさ』の感覚も。

そして、『何かを思い出すことを制止するように』発作が起きることも。


会話の途中で黙りこむ弟の肩を土方は、ポン、と優しく叩く。
「そんなに、思い詰めるな。」
土方独特のぶっきらぼうな優しさに総司は、はい、と小さく頷く。
そして、食器を洗い終わると机の上に置きっぱなしだった手紙を手に取り、土方に問いかける。

「彼女への返事、私が書いてもいいですか?」

なんとなく予想通りの総司の言葉に土方は、好きにすればいい、と低い声で呟いた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※
「つぐない 1」にも拍手ポチポチコメントもありがとうございました(*^^*)きちんとお返事はまた後程書かせて頂きますね。
暖かい拍手とコメントで頑張れそうです!じれったい展開ですがどうぞ宜しくお願い致します(>_<)
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ますます続きに期待☆

きゃーきゃー、やっぱり総司が弟なんですね♪
なぜ「兄さん」ではなく「歳三さん」なんだろう?血がつながっていないとか・・・?

なんだか切なくなりそうな予感たっぷりですね、でもそういう話ほど読んじゃうんですよね、なぜか・・・
二人には過去生で辛い思い出があるのかな・・・?
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