☆つぐない

☆つぐない 4

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ますます戦況が悪くなり総司たちの住む東京に空襲が増えてきた年の瀬。
年明けに次の京都行きが決まり、形式上今年最後の診療を終えた土方は白衣を脱いでその事を総司に伝える。
すると総司が診療の道具を棚にしまいながら呟いた。

「私も行ってみようかな...」

何となく予想通りの言葉に土方は一瞬返事につまる。

あれから総司とセイは手紙のやりとりをしているようだった。
最初だけは手紙の内容を確認したが、その後はどんな内容をやりとりしているのか土方は知らない。
だが手紙を書いているときや読んでいる時の総司の様子を見ていればセイの事を少なからず良く思っていることは目に見えて伝わる。
この一月足らずの間に来る手紙の量を見ればセイも総司とのやりとりを楽しみにしていることは確かなのだろうと思う。
出会ったこともなく、ただ文面だけの付き合いなのに、きっと二人は惹かれ合っている。
それが土方には分かっていた。
だから総司が京都へ行ってみよう、と思えるようになったのは『セイに会いたい』気持ちが大きいのだろう。
二人を会わせてやりたい気持ちは勿論ある。
発作の不安や徴兵への心配はあるが、一番大事なのは二人の『会いたい』という気持ちなのではないかと思う。
いつ会えなくなるか分からないこの時代だからこそ。

「..駄目ですか...?」
暫く返事をしてくれない土方の顔を覗きこむ総司。
土方は考え込んでいるといつも寄ってしまう眉間の皺を擦ると控えめに微笑んだ。
「お前が行きたいと思うなら俺は止めねぇよ。」
土方の言葉に総司は子どもの様な笑顔で、ありがとう、と返す。
総司は嬉しそうに仕事の片付けを終えると早速セイに京都行きの件を報告しようと思ったのか封筒と紙を取りだし机に向かった。
そのあからさまな姿に土方は思わず吹き出す。
「総司、今から手紙書いても手紙よりお前の方が早く京都に着くかもしれねぇよ。」
土方のからかうような口調に総司は顔を赤らめる。
そして耳まで真っ赤にさせながら
「それでも書きたいんです!」
と筆を進めた。


戦況が影響しているのか年が開けても正月という雰囲気はあまりない。
総司たちも特に正月らしいこともせずに患者が来れば大晦日だろうと三が日だろうと診療していたので忙しいままに京都へ行く日が訪れた。
二泊程の小さな荷物を持って汽車へ乗り込む二人。
いつもはお喋りな総司が今回はじっと何かを考え込むように窓の外を眺めている。
いつのまにか大人になってしまったその横顔を見ながら土方は寂しいような何とも言えない感情に襲われる。
例えば、大事に育てて来た息子を遠くへ送り出す時等はこんな気持ちになるのだろうか。

いつになく静かな旅路を終えていよいよ総司たちは京都へ到着した。
荷物を持ち、人混みに流されながら駅舎の外へ向かう。
『発作が起きるだろうか』
という緊張感が二人の間に漂う。
改札を出て、いつも発作が起きてしまう駅舎の外へいざ一歩、足を踏み出そうとしたその時。

「土方先生!」

明るい元気な声に呼ばれて二人は、はっとその声のする方へ顔を向けた。
「神谷さん。」
土方は笑顔でセイに向かって手を上げる。
「迎えに来てくださったんですか?」
「はい。あの、沖田先生からお手紙を頂いて。」
どうやら年末に書いていた総司の手紙の方が早く着いていたらしい。
セイは少し顔を赤らめながらチラと土方の後ろを覗きこむ。
総司は慌てて荷物を持ってセイの側へ駆け寄った。
「あ、えと。初めまして...って言うんでしょうか。沖田総司です。あの先生だなんてやめてください。」
「あ、こちらこそあの、初めまして、神谷セイです。でも、沖田先生もお医者様ですから..先生と呼ばせてください。」
ペコペコとお互い頭を下げる二人に土方は声をあげて笑いながらハッとする。
「総司、お前発作...!」
「え、そういえば...あれ。大丈夫です...」
土方に言われて漸く自分の身体の異変の無さに気が付く総司。
何時ものように苦しさもなければ目眩もしない。
むしろ、東京にいるよりも気分がスッキリしているくらいだ。
「はは...何でだろう。神谷さんに会える嬉しさの方が勝っちゃったんですかね。」
総司の素直な言葉にセイはますます顔を赤らめる。
二人の嬉しそうな様子を見て土方はホッとすると共に確信する。

やはり発作の原因は、この二人にあるのだ、と。



「とりあえず夕食には松本先生と帰るから二人でゆっくりしてろ。発作が起きたらすぐに大学へ来るように。」
三人でセイの住んでいる松本の家へ向かうと土方はそう言い残して急いで大学の研究所へ向かった。
今日は土方と総司も松本の家へ泊まる事になっている。
総司も土方の仕事を手伝うつもりでいたが今日だけは土方の優しさに素直に甘える事にした。

総司が居間に通され座っていると、セイがお茶を運んできた。
ありがとう、と茶を飲みながらセイの横顔をじっと見つめる総司。
その大きな瞳も、透き通るような白い肌も、可愛らしい唇も、やはり初めて会う筈なのに総司の記憶の片隅に存在しているような、懐かしい感覚に陥る。
じっと見られていることに気がついたセイが慌てて顔を反らす。
そして恥ずかしそうにお盆で顔を隠しながら
「あの、沖田先生。お茶を飲んだら少し散歩しませんか...?」
と総司を誘った。
総司は、勿論です、にこりと微笑む。
セイはその笑顔にホッとしながらも、心の奥がドクンと音をたてるような、少し泣き出したいような不思議な感覚に襲われた。

セイは京都の町を案内するように総司と歩いた。
総司の発作の事は心配ではあったが今のところその気配を見せないことに安心したセイはある場所へ総司を誘う。
「あの、ここが三条大橋なんですけれど...」
不安そうに言うセイの髪を冷たい風が揺らす。
「ここで、発作が起きたんです。」
橋の上に立って鴨川の先を真っ直ぐに見据えるその瞳を見た総司の胸がズキンと痛む。
思わず総司が心臓の辺りを押さえるとセイが慌てて駆け寄ってきた。
「沖田先生、大丈夫ですか?!発作ですか?」
慌てて総司の背中を擦るセイの頭を総司は安心させるように優しく撫でる。
「いえ。大丈夫です。...何となく、少し胸が痛んだだけで...」
未だ心配そうなセイの髪が、服が、風になびく度に、少しだけ総司の胸が音をたてた。

無言のまま二人が三条大橋を後にしてそのまま行くあてもなく歩いていると総司がポツリと呟いた。
「もうひとつ、神谷さんの発作が起きた場所ありましたよね?」
総司の言葉にセイはセイは顔をあげる。
「ああ、本願寺の...お西さんの辺りです。」
「そこも...行ってみたいな...」
総司が一人言のように呟くとセイも、分かりました、と小さく呟いた。


一時間近く歩いたのだろうか。
東京の話や仕事の話などをに夢中になって歩いているとあっという間に西本願寺へ着いた。
門は解放されていて誰でも中に入れるようだ。
総司が中に入ろうと足を進めるとセイが総司の袖をきゅっと引っ張った。
総司が振り向くとセイが心配そうな顔をしている。
「発作、大丈夫でしょうか?」
泣き出しそうなその顔に総司は、大丈夫ですよ、と微笑むとセイの小さな手を握る。
「こうしていれば、大丈夫だと思います。」
突然手を繋がれてセイは驚くが、その繋がれた掌の大きさに、温もりに言い様のない安心感を覚えて、ぎゅっと握り返すと総司の横に並んで境内の中へと足を踏み入れた。

セイもここを訪れるのは以前発作が起きた時以来で境内まで入るのは初めてだった。
もう日も暮れる時間ということもあるのだろうか、広い境内は誰もおらず、しん、としている。
歩いていると、総司もセイも発作まではいかなくとも何処か少し息苦しい。
まるで、繋いだ手のお陰で発作が起きずに済んでいる、そんな気がした。

「もう少し奥に行ってみませんか?」
境内をぐるりと一周したところで総司が提案した。
セイもコクリと頷いて総司の隣を歩いていくと少し奥まった中庭のような場所に大きな木を見つけた。
二人は自然とその木の前で立ち止まり上を見上げる。
すると季節柄、葉っぱが殆ど落ちているその枝の隙間から夕暮れの朱がきらきらと揺れて見えた。

私たちは、確かにこの場所を、この木を、知っている。

ふ、と鳴り響くお寺の鐘の音。
その瞬間、見上げていた木の上に楽しそうに笑い合う男女の姿が現れた。
今の二人のように、寄り添い、手を繋ぎ、見つめ合い、笑い合ってー。

冷たい夕方の風が吹くと共にその影は消える。
不思議な光景の余韻に浸りながら総司がセイの顔を見ると、セイの大きな瞳からは涙が一筋流れていた。

何故か涙を流すセイの気持ちが総司にも嫌というほど伝わって、総司はそっと指でセイの涙を拭う。
そして、繋いでいた手をぎゅっと握りしめながら、空いている片腕でセイの身体を優しく抱き締めた。

セイもゆっくりと総司の広い背中に腕を回す。

二人が重なれば、重なるほど胸の苦しさも痛みも消えて
ただ、暖かな懐かしさだけが、心に広がっていく。



きっと、二人は何処かで出会っていて
もしかしたらとても辛いことがあって、心が欠けてしまって

互いの欠けた隙間を埋めることができるのは、あなたしかいなくて

だから、こうしてあなたの傍にいれば、触れ合っていれば
暖かく、満たされるのでしょうか。




「...漸く、会えたんですね...」
総司がセイの身体を強く抱き締めながら小さな声で呟く。
セイも強く、強くその身体を抱き返しながら大きく頷く。

「会いたかった...」

自然と出た言葉と共に、二人はそっと唇を重ねた。



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