☆つぐない

☆つぐない 7

 ←40度だよ!!そしてお返事。 →☆つぐない 8 〈終〉

セイが目を覚ますともう外は真っ暗だった。
旅の疲れもあったのだろう。
総司の暖かさに安心して眠り込んでしまったらしい。

「神谷さん、目が覚めました?」
総司はそう言いながらセイの髪を撫でる。
セイの隣で小さな灯りをつけて本を読んでいたらしい。
「はい。すみません、すっかり眠ってしまって...」
「いいんですよ、疲れたでしょう?」
総司はセイの肩から落ちた布団を直してやるとその首筋にちゅっと口付けを落とす。
「ん...」
セイがまだぼんやりする意識の中で甘い声をあげると、総司は布団の中に潜り込んで服も着ずに眠り込んでしまったセイの身体に幾つもの口付けを落としていく。
「もう...せんせいってば...」
セイも嫌がる様子もなく総司の髪を撫でながら愛撫を受け入れる。
総司がその柔らかな乳房に手をかけ、口付けを落とそうとした時。


「...警戒警報ですね。」
聞きなれてしまった嫌な音が外で鳴り響き、二人の身体が緊張で固まる。
総司は布団から抜け出すと脱ぎ散らかしたままだった服をセイに手渡し自分も着替えを始めた。
「とりあえず、近くの防空壕に行きましょうか。」
総司の困ったような笑顔にセイはこくりと頷く。
のそのそと服を着ながら漸く夢から覚めたような、今までの出来事は甘い夢だったのではないか、という絶望感を抱きながら手を繋いで防空壕へ向かった。


防空壕の中には既に何人も避難していた。
奥からは赤ちゃんの泣き声や子どもの不安そうな声、大丈夫、大丈夫、とそれをあやす大人の声がかすかに聞こえる。
暗闇の中で総司とセイも手を繋いだまま空いているところへ腰かけた。

こうしていると一気に現実が目に見えてしまって、そうだ、自分は総司を戦地に送り出すためにここに来たのだ、とセイは本来の目的を思い出す。
明日になれば、何事もなかったかのように、御国の為に、と笑顔で送り出さなくてはならないのだ。
これっぽっちもそんなこと、思っていないのに。
セイが繋いだ手の力を強めると、怯えていると勘違いしたのか総司が優しく身体を抱き締めてくれた。
セイの背中に手を回し、大丈夫、大丈夫、と赤子を慰めるように擦る総司。
その仕草がセイを余計に切なくさせた。


一時間ほど防空壕の中で様子を見ていたが空爆は起きなかった。
入り口近くでラジオを聞いていた一人が、もう大丈夫だ、と皆に告げる。
敵国の飛行機たちは東京を抜けて房総の方へ行ってしまった、という情報を得たらしい。
ほっとする安堵の溜め息がひびき、皆は次々と防空壕を後にする。
総司たちも皆が安全に外に出たのを確認すると家路へ向かった。

その帰り道の途中、川縁を歩いていたときに急に総司が立ち止まり話し出した。

「神谷さん、この川、隅田川って言うんです。」
「隅田川ですか?」
「はい。春には桜が綺麗に咲くんですって。」

桜が綺麗にー。

あと、一月あまりだろうか。
その時は二人はどこにいるのだろう。
一緒にその桜を見れているのだろうか。



そんな事を思いながらまだ蕾も見えない桜の木を二人で見つめていると総司が、そうだ、と手を叩いた。
「神谷さんを連れていきたいところがあるんです。」
「えっ...」
驚くセイを他所に総司はセイの手を引っ張って診療所とは反対方向に進んでいく。
こんな夜中にどこへ、とセイは思うが、今日でなくては連れてって行ってもらえないかもしれない、と思うと何も言えなかった。

隅田川を渡って暫く歩くと小さな神社についた。
いや、暗闇の中で本堂しか見えなかっただけでもしかしたら大きな神社なのかもしれない。
「沖田先生、ここは...?」
「ここは今戸神社って言うんですけどね。」
今戸神社..と総司の言葉を繰り返すセイ。
聞いたことはないがなぜだか懐かしいような切ない気持ちになる。
まるで京都で発作が起きた時に近いけれど、もっと優しい気持ちに。

「ここに来ると、凄く落ち着くんです。」
総司はそう言うと本堂の階段に腰かける。
セイも隣に座ると総司の肩にそっと頭を乗せた。

三月の夜風はまだ肌寒い。
それでもこうして二人でいれば何処にいたって大丈夫、そんな気がする。

「ねえ、神谷さん。私たち、昔何処かで出会っていたんでしょうか。」
総司の言葉にセイは大きく息を吸うとコクリと頷いた。
いつ出会っていて、どんな関係でどんな思い出を二人で作っていたのか。
それは分からないけれど。
きっと二人は一緒にいることが当たり前で、きっと、強い気持ちで想い合っていたのだと、思う。
だからこそ、またこうして出会えて、互いの隙間を埋めることが出来たのだろう。

「また、出会えて良かった...」
二人が暗闇で見つめ合い、唇を重ねたその時。



聞いたこともない爆音が響いてセイの目の前は真っ暗になった。
薄れ行く意識の中、ゴウゴウという飛行機の音がかすかに聞こえる。

やっと開いた瞳の先に背中から血を流す総司の姿が見える。
行かなくちゃ、助けなくちゃ、と思うのにセイの身体は動かない。
そのうちに『熱い』という感覚が襲ってきてふ、と辺りに視線を動かせば一面の火の海。

何とかしてセイは総司に手を伸ばす。
やっと届いた総司の指先は、この熱さの中にいるとは思えないほどの、冷たさ。
セイは涙を流すことも叫ぶことも出来ずに、その場で残された力で総司の指先を擦る。



漸く、出会えたのにー。


遠い、遠い昔に。

私たちは、どれほどの罪を犯してしまったのでしょうか。
それは何度生まれ変わっても、許されないほどの罪だったのでしょうか。


うっすらと見える真っ赤な炎の中に浮かぶのは、朱い血の海。
その真ん中に私たちは刀を構えて立っている。

二人の表情ははっきりとは見えないけれど、泣いているのか。
それとも、笑っているのかー。

刀と着物には、たくさんの血飛沫が飛び散っていて


ああ、とにかく私たちは
たくさんの命を、奪ってきたのだ、と気付く。

たくさんの罪を、二人は犯してしまったのだと。


朦朧とする意識の中、もうすぐ途切れそうな鼓動の中、私は考える。

許されない罪を共に犯した私たちがまた出会えた事に意味があるのだとすれば、私は伝えたい。


また、何度でも私たちは出会えるから。

犯してしまった罪の償いは、もうこれで終わったから。


安心して。
今度こそー。


きっとこの先訪れるであろう平和な未来に産まれる私たちに、

そう、伝えたいー。








※※※※※※※※※※※※※※※※※※
昭和20年 3月10日
昭和20年3月9日22:30警戒警報発令、二機のB29が東京上空に飛来して房総沖に退去したと
見せかけ、都民が安心した10日00:08に第一弾が投下された。
東部軍管区司令部はまだ気付いておらず、当然ながら空襲警報も鳴らない。
00:15空襲警報発令、それから約二時間半にわたって波状絨毯爆撃が行われた。(www.asahi-net.or.jp/ 抜粋)


「つぐない 6」にも雑記にも拍手ポチポチありがとうございました。次が最終話の予定です。お返事連載終了してから書かせて頂きますね。
関連記事
スポンサーサイト
もくじ  3kaku_s_L.png ☆桜の時
もくじ  3kaku_s_L.png  ★白南風
もくじ  3kaku_s_L.png ◆『恋情』
もくじ  3kaku_s_L.png ◆青い春
もくじ  3kaku_s_L.png ◆黒煙
もくじ  3kaku_s_L.png ◆鬼の棲処
もくじ  3kaku_s_L.png ◆零れる花
もくじ  3kaku_s_L.png ☆つぐない
もくじ  3kaku_s_L.png ★雫
もくじ  3kaku_s_L.png ☆風の彩
もくじ  3kaku_s_L.png ◆黄昏月
もくじ  3kaku_s_L.png 閨(R18)
もくじ  3kaku_s_L.png ◎短編
もくじ  3kaku_s_L.png ❤宝物❤
もくじ  3kaku_s_L.png 風光るについて
もくじ  3kaku_s_L.png 新撰組について
もくじ  3kaku_s_L.png リンクについて
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【40度だよ!!そしてお返事。】へ
  • 【☆つぐない 8 〈終〉】へ

~ Comment ~

No title

お久しぶりです♪
旅行前後のバタバタでなかなかお邪魔できず、ご無沙汰してました。
京都も吉野も桜がとても綺麗でしたよ。

どのような形で二人が「罪を償う」のかなと思っていたのですが、こういう形だったんですね。
たしかに二人は信念の元とは言えたくさんの人を殺めていますからね・・・。

総司が招集されて引き裂かれ、戦場で戦って壊れていくのかなと思っていたのですが外れでした。
でもセイちゃんが一人残されなくてよかったです。好きな人とほぼ同時に死ぬ、というのは一人残されるよりましかなと私なら思うので。

東京大空襲がどう始まったのか知らなかったのでとても勉強になりました。

最終話、どうなるんでしょう。楽しみにしています!
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【40度だよ!!そしてお返事。】へ
  • 【☆つぐない 8 〈終〉】へ