★雫

★雫 《黄金》

 ←念願の江戸東京博物館!そしてお返事。 →拍手コメントありがとうございました!

口づけをしたあの夜から二人の関係は明らかに変化した。
これまでも、セイが『神谷清三郎』だった時から二人の仲の良さには見てるこっちの方が恥ずかしい、と言いたいときもあったがここ数日の二人は本当に仲睦まじい夫婦のようだった。


少し暖かい天気の良い午後。
「庭が見たい」という総司を連れて並んで縁側に腰かけてる二人。
「寒くないですか?」
と気にかけてセイは総司の肩に半纏をかける。
総司は、ありがとう、と微笑むとその半纏の中にセイを抱きよせた。
「神谷さんは?寒くないですか?」
「大丈夫です...」
こうして身体を寄せあっているだけで二人の身体と心は熱くなる。
あの夜の後も総司から口づけをすることはやはりないけれど、セイから唇を遠慮がちに重ねればそれを受け入れてくれるようになった。
今も暖かい半纏の中で抱き合いながらセイがそっと総司の手を握り唇を寄せる。
何時ものように総司は一瞬だけ躊躇するけれど、その時の寂しそうなセイの顔を見ると突っぱねることなんて出来なくて口づけを受け入れる。
一度こうして唇を重ねてしまえばもうそのあとは止められない。
どちらからともなく舌を差し入れて深く口づければその先の快楽まで我慢できなくなってしまって朝だろうと昼だろうと関係なく互いを求めることも少なくなかった。
総司があまりの心地よさに夢中で口づけを続けながら今日もそうなりそうだ、とセイの背中を優しく撫でていると

ゴホン

と自分ではない咳払いが後ろから聞こえて二人が慌てて離れる。
振り向くとそこには見慣れぬ洋装を纏った近藤と土方が立っていた。

「ひゃっ..!お二人とも、何時からそちらに...!?あ、あの私、お茶を淹れてきますね...!」
口づけを見られていたことの恥ずかしさにセイは顔を真っ赤にしながら逃げるように台所へと走っていく。
残された総司は、もう嫌になるなぁ、とこれからの時間を邪魔されたことに文句を言いながら部屋へと戻っていった。


セイが茶を用意して部屋に戻ると総司が何やら嬉しそうにニコニコと笑っている。
その子どものような笑顔にセイも何となく嬉しくなって、どうされたんですか、と茶を配りながら問いかけた。

「神谷、いや。おセイさん。総司を暫く借りるぜ。」
「え...?」
土方の言葉にセイは首を傾げる。
「神谷さん。近藤先生と土方さんと共に甲府に行ってきます。」
総司の言葉の意味が全く分からなくてセイは言葉を返せない。

何を、言っているのだろう。共に甲府に?

「え...?どういうことですか...?」
漸くセイから出た声は震えていた。
「甲府城を護れ、と達しが出たんだ。それに総司も連れていこうと思う。」
「このところ調子も悪くは無さそうだしあまり寝てばっかいると足が動かなくなるからな。」
軽く笑いながら土方が総司の足を叩くと総司は嬉しそうに、止めてくださいよ、と笑った。

調子が良いわけがない。
確かにこのところ喀血は減っているけれど目に見えて衰弱しているし顔色だって悪いままだ。


でも、
それに気付かない二人ではないはずだー。
そらならば、気付いて、総司の容態を理解した上で『連れていく』ことを決めたのだろう。
それならばー。

「では...では、私もお連れください...!」
セイの言葉は土方たちが予想していた通りの反応だったのだろう。
顔色一つ変えずにセイの方に向き直ると
「駄目だ。」
ピシャリと言い放った。
「どうして...先生の容態は副長たちもご存知ですよね?私が側にいればいざというときにすぐに対処できます!お仕事の邪魔は致しません、お願いします...!」
セイが必死に頭を下げるとその肩に近藤がポン、とやさしく手を乗せた。
「神谷...おセイさん。その後、身体はどうなんだい?」
「え?」
「その、ややは出来そうかな?見たところとても仲が良さそうだから安心はしているのだけれど。」
ははは、と笑う近藤の言葉にセイは先ほど口づけしているところを見られたことを思い出して顔を赤らめる。
「その...まだ、分かりません...」
こうして一緒になってからお馬が来たのはまだ一度だけだ。
もしも今回もややが出来ていなかったらそろそろお馬が来るはずだが、まだ分からない。
あれだけ毎日朝も昼も夜も愛し合っていたのだから赤子が出来ていたって何もおかしくはない。
むしろ、それを望まれて自分はここにいるのだからー。

近藤は黙りこんでしまったセイの手をそっと握ると
「もしも可能性が少しでもあるのなら、此度の君の仕事はその小さな命を護る事なんだ。」
わかるね、と微笑む近藤の声は涙が出るほど柔らかい。

分かる、十分すぎるほど分かるけれど、それでもー。

中々首を縦に振れないセイを見て総司が小さく溜め息を吐く。
そして
「少し、二人にしてもらえませんか?」
と近藤と土方に頭を下げた。


「神谷さん。」
二人きりになった部屋で総司はセイを呼ぶ。
それでも返事をせずに俯いているセイを見て総司はもう一度しっかりとした厳しい声でセイを呼んだ。
「神谷清三郎!」
「..はい...!」
その久しぶりに呼ばれた名前にセイは思わず大きな返事をして姿勢を正す。
その姿が可愛らしくて総司はついクスリと笑ってしまった。

セイはその笑顔を見て思う。
総司の表情はとても生き生きとしている。
近藤たちと共に行けることが本当に嬉しいのだろう。
この人はずっとその時を信じて病と戦ってきたのだからー。

総司は不安そうな表情のセイの手を引いて抱きよせるとちゅっと額に口づけを落とした。
「...神谷さん。ここで待っててくれませんか?」
総司の言葉にセイは首をぶんぶんと横に振る。
その子どもみたいな仕草に総司はもう一度クスリと笑うと抱きよせた身体を少し離してセイの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「ここで貴女が待っていてくれると思うと必ず帰ってこよう、と思えるんです。」
「...」
「私はお嫁さんなんて持つ気は全く無かったし煩わしいと思っていたけど...」
総司はにこりと微笑むとそっと、唇をセイのそれに重ねる。
総司からの初めての口づけにセイは驚いて瞳を見開いた。
「貴女に出会ったから...こうして貴女と一緒にいる時間が大切だから..」
総司はそう言うと、もう一度唇を重ねる。
今度は、深く、長く。
ゆっくり唇を離すと総司はセイの身体を強く抱き締める。
「貴女に、ここで私の帰りを待っていてほしいんです。...素敵じゃないですか?『いってらっしゃい』と『お帰りなさい』って言われてみたいなぁ、貴女に...」
「先生...」
セイは漸く総司の優しさを受け入れる。
近藤の言うとおり今の自分の仕事は総司を武士として送り出して、無事に帰って来れる場所を護ることだ、と。
「必ず...必ず帰って来てくださいね...」
セイの涙ながらの言葉に総司は、当たり前です、と胸を張る。
「貴女がここにいれば、足が折れても、這ってでも必ず帰ってきますよ!」



出立の日はすぐにやって来た。
総司のものだから、と土方に渡された洋装に着替えるのをセイは手伝う。
「何だか面倒な服ですねぇ。」
「本当に。こんなの一人で着れる人いるんですかねぇ。」
二人の会話はまるでこれから近所に買い物にいくのかと思えるほどに軽い。
セイは一度心を決めてしまえば後は『全て総司の為に』行動できてしまう自分に笑ってしまう。

やっとのことで服装を整え髪を結い終わると丁度玄関に近藤たちが迎えに来た。
見慣れぬ弟分の姿に近藤の顔が綻ぶ。
「総司、よく似合ってるじゃないか!」
「近藤先生も格好いいです。」
きゃっきゃ、と玄関先ではしゃぐ男たちを微笑みながら見つめるセイ。
総司はクルッとセイの方に向き直ると
「それでは、行って参ります!」
満面の笑顔を見せた。
「はい。いってらっしゃいませ。」
セイも満面の笑顔を作る。
総司が先に玄関を出て行くと近藤がそのあとで立ち止まり、セイの方を振り返った。
「神谷くん。いや、おセイさんだったね。...総司は必ず君の元へ連れて帰ってくるから。帰りを信じて、待っててやってくれ。」
近藤の言葉がこの前総司に言われた事と全く同じで、この師弟には敵わないな、とセイはクスリと笑う。
「承知しました。」
セイのまるで隊士の頃のような返事に近藤にも思わず笑いが溢れた。

セイが外まで見送りに出ると駕籠が二つ止まっていて抵抗する総司を無理やりそれに押し込んでいる姿が見えた。
もうひとつの駕籠に近藤が乗り込み、漸くぶすっとしながらも大人しくなった総司を見てセイはホッとする。
その様子を見ていた土方が、では行ってくる、とセイに声をかけた。
セイは土方の袖をちょい、と引っ張ると総司に聞こえないように耳打ちをする。
「副長、多摩の、ご実家に寄る時には駕籠を降ろして歩かせてあげてくださいね。」
セイの言葉に土方は、言われなくても分かってる!と怒ったような声で笑った。

「さあ、出発するぞ!」

どこからともなく大きな声が聞こえて列が動き出す。
あっという間に遠くへ行ってしまう同士たちをセイはやるせない気持ちで見つめながら声を張り上げる。
「...御武運を...!!」



総司が発ってしまった夜、セイが布団を敷いていると何時もの場所にもう一組布団がないことがズキンと胸に突き刺さった。
無事に実家に着いただろうか、という心配と、それ以上に『いつかこうして自分だけ残されてしまう時が来てしまう』という不安がセイの胸を押し潰す。
そんな事、考えてはいけない、と首を振るとセイは敷き途中の布団をそのままに廊下へ出て縁側へ腰かけた。
もう三月に入ったけれど夜はまだ肌寒い。
今にも泣き出しそうな朧に煙る月を見上げながら、総司は寒くないだろうか、と思い冷えた手を擦る。
この二月あまり、ずっと一緒に居すぎて隣にいないことがこんなに不自然だと感じることがおかしくて涙が出そうになった。
ポツリ、とセイの涙に変わるように空から冷たい雫が降り落ちる。

「通り雨でしょうね。」

柔らかい声に振り向くとそこには法眼の妻、トキが立っていた。
その優しい笑顔を見たとたんセイの瞳から我慢していたものが溢れだす。
その子どものように泣きじゃくるセイの姿にトキは驚くわけでもなく、あらあら、と隣にそっと腰かけると優しく背中を擦ってくれた。
「淋しくなってしまわれたのかしら?」
トキのまるで甘いお砂糖のような声にセイはコクンと頷く。
「...今、先生が隣にいないことも...これからそうなるかもしれないことも、怖くて...」
セイの言葉にトキは、そうね、と背中を撫で続ける。
「殿方なんて、そんなものかもしれませんね。」
トキはクスリとおどけるように笑った。
「夫なんて、みんな妻を置いて何処かにいってしまうんです。そんなものかもしれませんよ?」


『武士なんて皆きっといつか女子を置いて先に逝ってしまわはんのどすえ』

ふ、と思い出したのは京にいた頃に姉のように自分を可愛がってくれたお里の言葉。
その言葉に自分は、何と答えたのだっけー?


通り雨はいつの間にか直ぐに止んで、雲から抜けた金色の月が空に輝き出した。
庭先に滴る雫が同じように輝いて見える。

「さあさ、これを飲めば身体が暖まってよく眠れますよ。」
トキはそう言って暖めた滋養汁を差し出してくれた。
総司が大好きな甘くて柔らかなその味にセイは段々と心の落ち着きを取り戻す。
きっと、自分の事を心配して来てくれたのだろうトキの優しさが身に染みて身体だけでなく心まで暖かくなった。

「...トキさん。先生はご家族に会えたでしょうか。」
「そうですね。沖田様の事ですもの、きっとさぞかし喜ばれているでしょうね。」
ふわりと微笑むトキの暖かさはまるで母親のようで、総司もそうやって久しぶりの家族との時間を楽しめていたらいいな、とセイは涙を拭った。


屋根先からポツリと雨の雫がセイの頬に降りかかってきてその冷たさにセイがハッとする。


ああ、思い出した。
自分はあの時お里さんにこう答えたんだ。

『それでも、いつかそんな時が来ても私はきっと思わないよ。沖田先生に出逢わなければ良かったなんて。出逢えて、少しでも傍にいられて幸せだったと胸を張るよ』


そうー。
そうだった。

私は、貴方に出逢えて、傍にいられて
とても、幸せなんだー。




※※※※※※※※※※※※※※
甲府へ向かう理由がかなりテキトーです(汗)何度読んでも歴史的事情は覚えられません。沖田先生の台詞とかならすぐに暗記できるのに(笑)そして、私たちの味方はもうトキさんしかいない...(T^T)トキさん法眼の奥方ということは40そこらでしょうか?とても可愛らしくて包容力があって素敵な方ですよね(*^^*)
前雑記にも拍手ポチポチコメントもありがとうございました。次回にお返事書かせて頂きますね(*^^*)
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