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☆風の彩

☆風の彩 1

 ←龍馬さんには参った。そしてお返事。 →誕生日プレゼント!

別に何かに不満があるわけではない。
今までの人生、特に不自由なく生きてきた。
大変な世の中だ、と言われている中でも希望の就職先から内定を貰えたし。

友達はいい人ばかり。
一応彼女もいる。

どこにでもある普通の人生だけれども、それで十分なはずなのに
何故かモヤモヤと心の奥のほうがいつも疼いていて
自分の中の足りない何かを探しているみたいで。

そんな事をぼんやりと考えていたら

君が空から舞い降りてきたんだ。





※※

「行ってきまーす!」
勢いよく玄関から飛び出したセイは愛用の自転車にまたがると家の前の坂道を猛スピードで降りていく。
夏が始まろうとしているこの時期。
風を切ってこの坂を勢いよく下っていく、この通学の時間がセイは好きだった。

(今日もいい一日になりますように)
そう願いながら自転車を飛ばし長い坂道の真ん中あたりに差し掛かった所で後ろから母の声が聞こえてくる。
「セイ!セイってば!お弁当、忘れてる!」
「えー!?」
大事なお弁当を忘れたとはなんたること。
勢いよく走っていた自転車のスピードを緩めて後ろを振り返ろうとした時

「セイ!前!危ない!」

後ろからセイを追いかけてきた母が大きな声を出した。
「え?きゃあっ!!!」
セイが慌てて前を見るとそこにはぼんやりと歩く男の人の姿。
「そこの人!危ないー......!!」
キキーッという嫌なブレーキ音が響くと同時にガシャンと大きな音を立てて自転車と、セイたちが倒れた。

「いたた...」
「すみません、大丈夫ですか!?」
よそ見をしていてぶつかってしまった手前、セイは自身の痛みも忘れて巻き添えをくらった相手を心配する。
「あ、はい...すみません、こちらこそぼんやりとしていて。貴女は?大丈夫でしたか?」
「あ、私は...」
相手の男性が転んだ勢いでばらまいてしまった荷物を拾おうとセイが立ち上がろうとすると膝のあたりに鋭い痛みを覚えて思わず顔を歪める。
「セイ!大丈夫?」
漸く追い付いた母が息を切らして二人を覗きこむ。
「うん。ちょっと怪我しちゃっただけ。」
セイは血だらけの膝小僧を押さえながらよいしょ、と立ち上がると男性の荷物を拾い始める。
母も、すみませんでした、と頭を下げながら荷物拾いを手伝ってくれた。
定期入れだろうか、少し離れた所に転がった黒い小さなケースを拾いあげたセイはそのケースの中に近くの大学の学生証を見つけて、あれ、と思う。
「そこのK大学の学生さんなんですか?」
そう聞きながらケースを手渡すと男性はにこりと微笑み、はい、と答える。
初めてまともに見たその彼は決して顔が格好いい、とは言えないけれど笑顔から優しさが滲み出ているような、好青年だった。
何故かその笑顔に懐かしさのようなものを感じたセイが彼の笑顔から目が離せなくなっていると
「あなた、怪我大丈夫ですか!?すごい血ですよ!」
セイの膝から流れる血を見て驚いた青年が慌てて鞄からティッシュを取り出す。
うわー、痛そう、と顔をしかめながらセイの膝の血を拭いてくれる姿を見下ろしながらセイは思わずその優しさにクスリと笑ってしまう。
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。お兄さんも大丈夫なら私、もう行きますね。今日ちょっと急いでいて本当にすみませんでした!」
セイはペコリと頭を下げるとカラカラと変な音がなる自転車のペダルを何度かグルグル回し、よし大丈夫みたい、と笑うと
「それじゃあ!」
とまた猛スピードで自転車をこいでいってしまった。
その元気な姿を呆然と見送りながらセイの母親が
「あらやだ。結局お弁当忘れてる。」
と一人言のように呟くと隣にいた青年がクスクスと笑い出す。
「あの制服、K大附属高校ですよね。僕、校舎わかりますし、届けましょうか?」
青年の親切な申し出に一度は遠慮して断ったものの、あまりに爽やかな笑顔に折れた母は、じゃあお願いしようかしら、と弁当を手渡した。
「すみません、宜しくお願いします。」
ペコリと頭を下げる母に青年はにこりと微笑む。
「2年2組の神谷セイさんですよね!承知しました!」
そして大学の方へ走り去っていった。



何故なんだろう。

突然空から元気な女の子が降ってきた。
そしたらさっきまでのモヤモヤとしたものがすーっと晴れて。
今までぽっかりと開いていた穴が柔らかいもので鬱がれるようなそんな感じ。

今日は。今日からは。
違う毎日が、始まる、そんな気がしたんだー。



※※

「あーおなかすいたぁ。」
昼休み目前の三時限目が終了した頃。
机に突っ伏してじたんだを踏む年頃の娘が一人。
「セイってば..。でもお弁当忘れちゃったんでしょう?四時限目終わったら購買に走るしかないね。」
「...そうだね。この際あの幻のコロッケパンを何としてもゲットしたいもんね..」

この決意の元、四時限目終了の鐘がなるやいなや教室を飛び出し念願のコロッケパンを始め両手一杯に昼食を買い占めたセイが教室に戻ると
「セイ!お客さん来てるよ!」
クラスメイトが慌てた様子でセイを呼び寄せた。
背中を押されるようにして教室に入るとなんとそこには今朝自転車で衝突したあの青年の姿。
「あ、神谷さん!」
にこにこと爽やかな笑顔を振り撒きセイの席に座っている。
「え、今朝の..?どうしたんですか?」
セイが慌てて駆け寄ると青年はにこりと微笑んで弁当が入った包みを手渡した。
「これ。お母さんから頼まれました。」
「え、...おべ...。わざわざ届けてくださったんですか!?すみません、ありがとうございました!」
セイが真っ赤な顔をして頭を下げると青年はカラカラと笑い声をあげながらセイの頭を撫でる。
「どういたしまして。怪我も大したこと無さそうですし、安心しました。」
そう言うと、じゃあ、と注目しているクラスメイト全員にペコリとお辞儀をして教室を出ていってしまった。
唖然としているセイにクラスメイトがツンツンと腕をつつく。
「ね、あれ誰?セイの新しい彼氏?」
「ち、違うよ!あ、そうだ。お弁当..」
セイは両手に抱えた戦利品のパンをぎゅっと抱き締めると青年の後を慌てて追いかける。

「あの!すみません!」
案外足の早い青年に漸く追い付くとセイは持っていたパンの袋をずい、と押し付けた。
「あの、お弁当ないと思って買ってきちゃったので...良かったら食べてください。」
セイはそう言い捨てると青年の返事も聞かずに教室へ走って戻っていく。
出会ったその時から元気一杯な女の子の後ろ姿を見送りながら、何だか鉄砲玉みたいだな、と総司はクスリと笑う。
中庭に出てベンチに座ると早速セイから貰ったパンの袋を覗きこみ一つ取り出して口に放り込んだ。
甘い菓子パンを頬張りながら袋がはち切れんばかりに詰め込まれたパンの山を見て思わずプッと吹き出してしまう。
(最近の女子高生はこんなに食べるのかな)
周りに変な目で見られそう、と思いつつも総司は笑いが止まらない。
袋の一番下にはご丁寧にデザートのプリンまで仕込まれていて総司は込み上げる笑いを飲み込むようにゴホンと咳をした。

(あ、懐かしいこの味。)
つい四年前までここの高校の生徒だった総司は当時と変わっていない購買のパンを味わう。
そして最後に実は大好物のプリンを食べながら
(何だか甘くてふわふわであの娘みたい)
と微笑んだ。



※※

総司が大学に戻ると教室の前で恋人のハナが待っていた。
「あ!総司くん。探してたんだよ。お昼は?」
「もう食べて来ちゃいました。」
総司はお腹いっぱい、と腹を擦る。
「もう。なんだ。せっかく待ってたのに...」
ハナは少しムッとしながら溜め息をつくと、ねぇ、と総司の袖を引っ張る。
「ね、今日、家来る?」
恋人に甘い声で誘われて断る男などいない、と思ったら大間違いである。
「ああ。今日は、ごめんなさい。行きたいところがあって。」
え、とハナが瞳を丸くすると授業開始のベルが鳴り響いた。
じゃあ、と総司は教室へ急ぐ。
ハナはその姿を小さく手を振って見送った。

「ハナ先輩探してたぞ。」
総司が席に着くと友人の藤堂に肩をつつかれる。
「うん。今教室の前で会ったけど。」
「いいよなー。もう付き合ってどれくらいだっけ?」
「うーん。まだ三ヶ月くらいだったと思うけど?」
自分の事とは思えぬくらい冷めた口調の総司に藤堂は呆れたような溜め息をはく。
お前は昔から変わらないよね、と藤堂にブツブツ文句を言われているとそのうち退屈な授業が始まった。

ハナは二つ上の大学院に通う学生だ。
総司の入っていたサークルの先輩で入学当初から互いを知っていたが今年になってハナから「付き合ってほしい」と告白を受けた。
特に断る理由もなかったし元々話やすい相手でもあり、まあいいか、というくらいの軽い気持ちで付き合い始めたのだ。
付き合って三ヶ月とはいえその間総司は就職活動で忙しい時期が重なり特に今までと変わらない関係を続けてきたが最近漸く周りからも『恋人らしくなったね』と言われることが増えてきた。

しかし当の本人は、そうだろうか?と思っている。
今までもお付き合いをした女の子は何人かいたしそれなりに色んな経験もしてきている。
年頃の男子な訳だしやることもやってきている。
それでも今までも、そしてハナと付き合い始めの今も正直これが『恋』なのかはわからない。

何日も会わなくても全然平気だしハナと一緒にいるよりも一人でぼんやりしていたり映画を観ていたりするほうがよっぽど楽しい、とも思う。
そう思ってしまうことが、相手にとって失礼だということも何となく気付いていた。

ぼんやりとそんな事を考えながら総司は早く授業が終わらないかな、と溜め息をつく。
夕方になったら、行きたいところがあった。
いや。
会いたい人がいる、と言った方がいいのかもしれない。

こんなにわくわくする気持ちは産まれて始めてかもしれない。

総司は逸る気持ちを抑えきれずに授業終了のベルが鳴るなりすぐに教室を飛び出し今朝、セイとぶつかったあの場所へと走っていった。






※※※※※※※※※※※※
月葉さんからリクエスト頂いた『現代版沖セイ』です(*^^*)「桜の時」は風の二人よりも年上の話。「つぐない」は戦時中の話。なので風と同じような年頃で今時の二人のお話を、という事で書いてみました。なにやら長くなる予感がいたします...お付き合い頂けると嬉しいです(о´∀`о)
月葉さん、リクエスト本当にありがとうございました!
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はじめて、投稿します。はじめましていつも小説楽しみにしています。リッチと申します。(*´∀`)私の一番好きな現代版の連載とてもうれしいです。出来たら、沖セイには、記憶思い出して欲しいです。 リクエストなんですが、沖セイ記憶喪失話を読んでみたいです。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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