☆風の彩

☆風の彩 2

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空が真っ赤に染まる夕暮れ時。
セイは自転車を押しながらとぼとぼと家へ帰る。

行きは気持ちよく坂道を下れるが帰りはキツイ登り坂。
慣れてはいても気分は重いものだ。
今日に限っては気持ちが晴れないのは坂のせいだけじゃないのだけれど。

坂の手前にさしかかり、ふぅ、と一つ溜め息をつくと

「神谷さん!」

聞き覚えのある声に呼び止められた。
セイが振り返ると今朝自転車で衝突した青年の姿。
「お兄さん。」
セイはにっこり笑って総司に駆け寄る。
「お兄さん、今帰りですか?お家近いんですか?あ、さっきはお弁当ありがとうございました。」
勢い良く話しかけるセイに少しだけ驚きながら総司が、まあまあ、と宥める。
「あの、僕、沖田総司と言います。」
「え?」
「あの、名前。言ってなかったな、と思って。」
ああ、そうか、と漸く納得したセイが頷く。
「沖田、総司さん...。沖田先輩ですね!」
承知しました、とセイがニコリと笑うと総司の胸がぎゅっと甘く痛んだ。
「あの、お昼にたくさんパンを頂いたちゃったのでお返しに、と思って。」
総司はそう言ってリュックの中から紙袋を取り出す。
「ええ、そんなのいいのに...」
セイは一応遠慮しながらも紙袋を受けとると中身を覗いて、わあ!と瞳を輝かせた。
「駅前のケーキ屋さんのシュークリームですね!わあ、いつも売り切れで食べたいなぁと思っていたんです!ありがとうございます!」
その場で跳び跳ねて喜ぶセイ。
こんなに喜んでくれて、授業をさぼってまで買いに行った甲斐があった、と総司は微笑んだ。
「沖田先輩、一緒に食べませんか?」
セイは袋から一つシュークリームを取り出すと、はい、と総司に手渡す。
「いいんですか?」
「もちろんです。」
二人は近くのベンチを探して座る。
『頂きます。』
と互いの声が揃ってしまって思わず二人でプッと吹き出してしまった。

「あ、やっぱり美味しい!」
口一杯にシュークリームを頬張り微笑むセイ。
その様子をニコニコと見つめながら総司もぱくりとシュークリームにかぶりつく。
「沖田先輩は大学何年生ですか?」
「四年です。もう来年から社会人ですよ。」
「四年かぁ。じゃあ知らないかなあ。」
「誰か知り合いがいるんですか?」
「はい。兄の彼女が大学院にいるんです。」
大学院、という言葉を聞いて総司はギクリとする。
別に同じ大学院に自分の彼女もいるからといって悪いことをしているわけではないのに。
「あー..少しなら分かるかも。」
「本当ですか?あの、里ちゃんって言うんですけど...名字は何だったっけかなぁ...」
「里ちゃん...」
もしかして、と総司の鼓動が早くなる。
ついこの間ハナの友達だ、と紹介された女性の名前も『さとの』だった。
ハナの存在をセイに知られることが何故だか怖くて総司が黙っていると
「あ!噂をすれば、里ちゃん!」
坂の上から歩いてきた女性にセイが大きく手を振る。
セイに気付いて手を振り返すその人は、まさに総司が思っていた『さとの』だった。
「セイちゃん、今帰りなん?」
坂の下まで降りてきた里乃は柔らかい京都弁で問いかける。
「うん。里ちゃん家に来てたなら早く帰れば良かった。」
兄の彼女だと話していたがどうやらセイとも相当仲がいいらしい。
楽しそうに話す二人の蚊帳の外の総司の存在に里乃が気付いたのは暫くたってからだった。
「セイちゃん、その人は?って、あれ...君、確か...」
「K大の四年生の沖田先輩。里乃さん知ってるの?」
「知ってる、というか..何、セイちゃん今はこの人と付きおうとるの?」
ジロリ、と総司を軽く睨み付ける里乃にセイは慌てて首を横に振る。
「違う違う!ちょっと、今朝色々あってね。あの、シュークリーム頂いたの。」
ほら、とセイは紙袋を見せる。
ふーん、とまだ納得がいかないような顔をして里乃が総司の方へ向き直った。
「驚いた。この人、うちの友達の彼氏やて紹介してもろたばかりやったから。」
里乃の言葉に総司は気まずそうな顔をする。
「あ、そうだったんだ。今里ちゃんの話、していたところだったの。」
暫く女子二人できゃっきゃと騒いだあと里乃はまだ疑わしそうな顔をしたまま、ほな、と帰っていった。
里乃の姿を見送った後。
「沖田先輩彼女いるんですね?」
セイが総司の顔を覗きこんできた。
「い、いますけど...ダメですか..?」
顔を真っ赤にさせて焦る総司の様子が面白かったのかセイはケラケラと笑うと
「別にダメじゃないですけど。いいなぁ。私は...今日振られちゃったからなぁ。」
と溜め息をついた。
「えっ...今日?ってか神谷さん彼氏いたんですか!?」
総司の余りの驚きようにセイは少しムッとする。
「私だって彼氏くらいいますよ。...でもいつもダメなんだなぁ。すぐに別れちゃう。」
なんでだろ?と一人で首を傾げるセイからは今日別れたばかりの悲壮感はまったく感じられない。
「...なんで別れちゃったんですか?」
総司は気を取り直してもう一度ベンチに座ると問いかける。
「なんで...なんでだったんだろう。そもそも告白されればとりあえず付き合うけれど好きかと聞かれるとそうでもないし...。そういう私の気持ちが分かっちゃうのかな...」
ふんふん、と頷いていた総司はセイの意外な言葉に食べていたシュークリームを思わず喉に詰まらせ咳き込んでしまった。
「沖田先輩⁉️大丈夫ですか!?」
セイは慌てて総司の背中を擦る。
なんとか落ち着きを取り戻したところで総司は呆れたような声を出した。
「神谷さん...告白されれば誰でも付き合っちゃうんですか!?」
「え...はい...ダメですか...?」
総司の剣幕にセイは身を縮める。
「そんなの、ダメですよ!自分を大事にしないと...!」
勢い良くそこまで続けながら総司は、ハッとする。
自分だって同じじゃないか。
ハナから好きだと言われて、嫌いじゃないから付き合った。
けれど付き合って数ヶ月たつ今でさえハナのことを本当に好きなのかどうかは分からない。
セイに偉そうに言える立場ではない。

急に黙りこんでしまった総司を心配してセイはもう一度優しく総司の背中を擦る。
大丈夫ですか?と自分の顔を覗きこむ会ったばかりの少女の方が何故だかハナよりも数倍愛しく感じた。
「...ごめんなさい。余計なお節介ですよね。僕も人のこと言えた義理じゃないし...」
「沖田先輩も彼女さんのこと、そんなに好きじゃないんですか?」
あまりにもストレートなセイの問いかけに総司は思わず言葉に詰まる。
しかしふぅと一つ大きく溜め息をはくと、そうなんです、と小さな声で返事をした。
そっか、とセイは背中を擦り続けながら空を見上げる。
いつの間にか真っ赤に染まった空は遠くに消えてしまって代わりにチラチラと輝く星が顔を出していた。
「....私も人のこと言えた義理じゃないですけど..大丈夫。そんなものですよ!」
セイはトン、と総司の背を優しく叩くと、ね、と微笑んだ。
何の根拠もないその言葉が、それでもその時の総司には嬉しく響いて、そうですね、と笑顔を返す。

気がついたら食べ終わっていたシュークリームのゴミを紙袋にしまうとセイが腰を上げた。
「帰りましょうか。」
夕暮れ時と夜の闇の合間の優しい色に染められたセイはとても美しい。
今すぐにでもこの胸に抱き締めて、自分だけのものにしたい。

そんなことを誰かに対して思ったのは、産まれて初めてだった。


「送りますね。」
総司は初めて感じる甘い胸の痛みをぐっと堪えながら立ち上がる。
総司に続くように歩き出したセイの小さな手を握りたい気持ちを抑えながら二人でセイの家がある坂の上までゆっくりと歩いていった。



※※

家に着いて総司からもらったシュークリームを母に渡すと母はまるでセイと同じように飛び上がって喜んだ。
セイがご飯前におやつを食べると文句を言うくせに「ちょっとだけ」と言いながらシュークリームを少し摘まんで口に入れる母を見てセイは(自分にそっくりだな)と思う。
満足そうに指についたクリームを舐めながら母が、そうだ、と手を叩いた。
「今度土曜日にうちでバーベキューやるでしょ?それに沖田さんも来てもらったら?」
「うーん。私はいいけど沖田先輩は知らない人ばかりのところなんて気を使うんじゃない?」
「でも里乃ちゃんの友達が彼女なんでしょう?一緒に来てもらえばいいじゃない。」
母の言葉にセイの胸がちくりと痛む。
でもそれがなんの痛みなのかはハッキリとその時は分からなかった。
「えー...。でもそしたらお兄ちゃんと里乃さんでしょ、沖田先輩と彼女でしょ。私だけ一人じゃん。」
セイが口を尖らせると傍で聞いていた兄が口を挟む。
「それなら斎藤も呼ぼうか?」
斎藤とは兄の昔からの友人でセイも何度か面識がある。
何処か兄に雰囲気が似ていてどちらかというと寡黙な青年だ、という記憶くらいしかセイの中には残っていないのだが。
「いいじゃない。お母さん、斎藤くん好きよ。」
嬉しそうに笑う母にそれ以上文句も言えなくてセイは分かりました、と返事をすると先程聞いたばかりの総司の連絡先にメッセージを送る。
『土曜日お時間ありましたら家にいらっしゃいませんか。バーベキューをするのですがさっき話した里ちゃんも来るので良ければ彼女もご一緒にどうぞ。母が会いたがっていました。』
そこまで書いて送信ボタンを押してしまったセイは、あ、と思い出したようにもう一度メッセージを打つ。
『シュークリームご馳走でした。母もとても喜んでいます。それと送ってくださってありがとうございました。』
ピッとセイが送信したのとほぼ同時に総司からの返信が届く。

『お誘いありがとうございます!是非行かせてください。お母さんやご家族にも宜しく。』

絵文字一つもないただの文章だけれど画面からさっきの爽やかな笑顔が飛び出してくるようでセイはクスクスと笑いだす。
「沖田先輩来るって。」
セイがソファーから母に伝えると「返信早いわねぇ」と感心したような声を出した。
セイは何度もその短い文章を読み直す。

今日初めて会ったばかりの人と連絡先を交換して家に誘うなんてなんだか悪いことをしているみたいで
でもなんだか胸の奥がくすぐったいような嬉しい気持ちもあって。

早く土曜日にならないかな。


わくわくした気持ちを何処かに発散したくて、セイはソファーの上にゴロンと転がると置いてあったクッションをぎゅーっと力一杯抱き締めた。



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