☆風の彩

☆風の彩 3

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待ちに待ったバーベキュー当日の土曜日。
朝から買い物を頼まれたセイが重たい袋を両手に持って坂を上がっていると前に総司の姿が見えた。
「沖田先輩!」
セイは息を切らして坂をかけ登る。
すると重そうな荷物を見た総司が慌ててセイの元へ駆けつけてくれた。
何も言わずにひょい、とセイから荷物を受けとると
「今日はお邪魔しますね。」
と微笑む総司。
セイもニコリと笑いながら総司の隣に誰もいないことに気が付く。
「あれ?彼女さんは?」
首を傾げるセイの顔を総司は横目でチラと見ると
「あのあと...別れちゃいました。」
と肩をすくめた。
「えっ」
驚いて足を止めるセイ。
もしかして自分が余計な事を言ってしまったせいだろうか、とオロオロするセイをよそに総司は気持ちの良い青空を見上げながら笑う。
「ちゃんとね、今度は好きな人と付き合おうと思って。」
柔らかい声の中にも固い決意が感じられて、どこかスッキリとしたその笑顔からセイは暫く目が離せなかった。
「そっか...そうですね。それがいいと思います。」
うんうん、と頷きながら独り言のように呟くセイに総司が「だからあなたも、」と言いかけた時。
「あ、里ちゃーん!」
坂の下に里乃の姿を見つけたセイが総司の言葉を遮るように大きく手を振る。
言いたいことを最後まで言えなかった総司は少し残念だったがまた今度話せばいいや、と諦めた。
それよりも今は里乃の視線の方がなんとなく気になってしまう。
「あ、里乃さんおはようございます。今日は...よろしくお願いします...」
ペコペコと頭を下げる総司を見てセイは、ああそうか、と改めてこの二人の関係性を思い出す。
「里ちゃん、あの聞いてるよね?沖田先輩と彼女さん別れちゃったんだって。」
「聞きました。」
もう少し冷たくされるかな、と考えていたが里乃は人様の恋にとやかく口を出すほど子どもでもないらしい。
「まぁ。それは置いておいて今日はせっかくやし。皆で楽しまんとね。」
里乃はそう言うと未だに頭を下げている総司の肩をポンと叩いた。
さっぱりとした態度の里乃にホッとした総司は二人の後を追いかける。
そして人に荷物を預けたのも忘れて里乃とさっさと坂を登って行ってしまったセイに
「待ってくださいよぅ」
と情けない声を出す総司なのであった。

※※

セイの家に着いて総司は一通り家族に挨拶を終えると庭で火をおこしていた兄の佑馬の向かいに腰かけた。
「何か手伝うことありますか?」
総司の申し出に佑馬は「じゃあそこの炭をとってください」と頼む。
女たちが台所でわいわいと料理の準備を楽しそうにしているのを横目で見ながら総司が、いいなぁと呟いた。
「家族皆さん、仲が良いですよね。里乃さんも溶け込んでるというか。」
総司の言葉に佑馬は嬉しそうに微笑んだ。
「里乃は早くに母親を亡くしているから家の母が余計に可愛がってるみたいで。」
へぇ、と総司は頷く。
勿論里乃もとても素敵な女性なのだろうけどそれと同じくらいセイの母親も優しくて心の広い人物なのだろうな、と思った。
「セイなんかはね。」
突然佑馬の口からセイの名が出てきたことに総司はドキッとして顔を赤らめる。
まるで今セイを目で追っていたのがバレてしまったのかと思ったのだ。
それに気付いていたのかいないのか、総司の反応に佑馬はクスリと笑いながら話を続ける。
「セイは僕が最初に里乃を連れてきた時なんて酷かったんですよ。自分で言うのも何なんですけどセイは本当に僕になついているからヤキモチ妬いたんでしょうね。部屋から一歩も出てこなかった。」
その時の事を思い出したのか佑馬が声に出して笑う。
「でもいつだったか家の前の坂の下でセイが同級生の男に言い寄られているのを見た里乃が『嫌がってるんやからやめなさい!』って一喝してセイを助けた事があって。それからかな。僕よりも里乃の方になついちゃって。」
何となく想像がつくその場面を頭に描きながら総司はセイをまた目で追ってしまう。
ニコニコと楽しそうに里乃の後を追いかけるセイはまるで小さな子どものようで、あんな風に頼られてみたいな、と総司は思った。
その後も総司と佑馬が学校やら仕事やらの話をしているとセイが缶ビールを両手に持ってやって来た。
「お兄ちゃん、火はついた?そういえば斎藤先輩遅くない?」
はい、と二人にビールを手渡すとちょこん、と総司の隣に座るセイ。
佑馬の隣ではなく自分の隣に来てくれたことが嬉しくて総司はニヤニヤしてしまう顔を隠すようにぐいっと勢い良くビールを喉に流し込んだ。
「斎藤、先輩って?」
総司が問いかけると斎藤に電話をかけている佑馬の代わりにセイが答える。
「お兄ちゃんの昔からの友達なんですけど。多分沖田先輩と同じ歳かな?近所に住んでいるんですけどね。」
そこまで説明したところで佑馬が電話を切る。
「何か遠くのケーキ屋までデザート買いに行っててもうすぐ着くって。」
佑馬の言葉にセイがばんざーいと両手をあげる。
この前のシュークリームの時といい、きっとセイは甘いものが大好物なのだろう。
「あ、神谷さん僕もおやつ買ってきたので食べてくださいね。」
何となく斎藤、という人物に負けるわけにはいかない、とばかりに総司が大きな声を出す。
そんな気持ちには全く気付かないセイは
「本当ですか?お腹空いたから先に頂いちゃおうかな~」
と台所へ戻っていった。
可愛いなぁ、と頬を染めながらセイを見つめているとその様子をニコニコと見ていた佑馬に気が付き総司は慌ててセイから目を反らす。
「セイは...ちょっと鈍感ですから...頑張ってくださいね。」
佑馬の言葉に自分の気持ちなどバレバレなのか、と総司は肩を落とすと、はい、と小さく返事をした。

暫くして斎藤が両手一杯にデザートを抱えてやってきた。
それを受け取ったセイの母親が、冷蔵庫入るかしら、と嬉しそうに台所へ運んでいく。
セイに案内されて部屋に入ってきた斎藤に総司は頭を下げる。
「初めまして。沖田です。今日はよろしくお願いします。」
「沖田、さんですか。斎藤です。宜しく。」
ボソリと呟くその喋り方になんとなく聞き覚えがあって総司は首を傾げる。
「あの...斎藤さん、どこかで会ったことありませんか...?」
総司の言葉に斎藤は脅えた顔をしながら
「なんだ。新手のナンパか?悪いが俺は男とどうこうなる趣味はないぞ。」
「えっそんなつもりじゃ..!」
斎藤の誤解を解こうと総司がオロオロしていると後ろで聞いていた佑馬が我慢できずに笑いだす。
「あはは!沖田さん、大丈夫ですよ!今のは斎藤の冗談です。」
「えっそうなんですか?!」
焦って斎藤と佑馬の顔を交互に見まわす総司を気にすることなく斎藤は台所から飲み物を運ぶ手伝いをテキパキとしている。
総司も慌てて肉や野菜が盛られている皿を運び始めた。

※※
「ではカンパーイ!」
それぞれが飲み物を片手に楽しい時間が始まった。
美味しそうにビールを飲む大人たちを横目にセイが恨めしそうな声を出す。
「いいなぁ。みんなはお酒。私はコーラ。」
「あと三年の我慢だな。」
佑馬がわざとらしくセイの頭を撫でるとセイが益々口を尖らせる。
「お父さんがいればなぁ。飲ませてくれるのに。」
セイの言葉に総司がそういえば、と口を挟む。
「お父さんは?お仕事ですか?」
「父は北海道に単身赴任中なんです。」
セイが答えると横から里乃が、ほんまに優しいお父様なんやで、と笑った。
「セイ~ちょっと手伝って~!」
乾杯のあと直ぐに台所へと帰っていった母がセイを呼ぶ。
セイは面倒くさそうに、はいはい、と腰を上げると部屋の中へ入っていった。
癖になってしまったかのように総司がセイを目で追っていると斎藤がポソリと呟く。
「沖田さんとセイは付き合っているのか?」
「え!?」
斎藤の言葉に驚いたのは意外に総司だけで佑馬と里乃は聞いていない振りをしている。
「いえ!付き合ってなんていませんよ!まだ会ったばかりですし..」
「そうか。」
斎藤は短く返事をするとコップに入っていたビールを一気に飲み干す。
そう。まだ、会ったばかり。
自分の言葉に総司は落ち込む。
まだ自分はセイの事を何も知らない。
どんな生活を送っていて小さい頃はどんな子どもだったのか、何が好きで何が苦手なのか。
どんな男と付き合ってきたのかー。

ゴクゴクと次々にグラスをあける斎藤をチラリと見ながら総司は考える。
斎藤は佑馬とは昔からの友人だと言っていた。
セイの事を「セイ」と名前で呼ぶくらいだからセイとの付き合いも相当長くて、深いのだろうか。

「あの、斎藤さんは?彼女いるんですか?」
総司が話をふると斎藤がグラスをコトリ、とテーブルに置き総司をじっと見る。
「恋人はいない。しかし好きな女なら、いる。」
「へ、へえ。斎藤さんが好きになる人なら素敵な女性でしょうね~」
あはは、とヘラヘラ笑いながら総司が話を合わせていると斎藤がふっと低い声で笑った。
「セイのことだ、と言ったらどうする?」
この斎藤の言葉に驚いたのはさすがに総司だけではなかったらしい。
聞いていないふりを決め込んでいた里乃も思わず振り返り二人の顔を目を見開いて見ている。
佑馬は薄々斎藤の気持ちに気付いていたのだろうか。
何も言わずに肉を焼き続けていた。
「え...セイって、あの、神谷さん...?」
そっとセイを指さしながら総司が呟く。
その総司の問いかけには答えることなく斎藤はまた目の前のビールに没頭しはじめてしまった。
さっきのような冗談なのか、本気なのか斎藤が何を考えているのかさっぱり分からず総司が思わず佑馬に助けを求めようとした時
「みなさーん!今日のメインの蟹ですよ~!」
セイが山盛りの蟹の足が乗った皿を運んできた。
その豪華さに斎藤の言葉など忘れて、わー!すごーい!と目を輝かせる総司。
「沖田先輩、蟹はお好きですか?父が北海道から送ってきてくれたんですけど美味しいですよ~!」
佑馬が肉を避けてくれた部分の網に蟹足を乗せながらセイが得意気に話す。
「はい!大好きです!殻を剥くのも大好きです!」
「では沖田さんに全て剥いてもらおう。」
総司の言葉に斎藤が呟く。
えっと驚く総司を他所に隣で佑馬がクスクスと笑っていて、ああ冗談か、とホッとしたのも束の間。
ふ、と総司は先程の佑馬の様子を思い出す。
さっきのセイの話では佑馬は何も反応していなかった。
ということは斎藤がセイを好きだという気持ちは冗談ではなく本気なのだろうか。

総司がぼんやりと考えているとセイから焼けた蟹足を手渡された。
「はい。沖田先輩の分と私の分。私は剥くのが苦手なのでお願いしまーす!」
こんなに可愛い笑顔で言われて断れる訳がない。
総司はへらへらと笑いながら次から次へと渡される蟹の足を食べる暇もなく殻を剥き続けたのであった。



何が嬉しかったかというとセイが当たり前のように自分の隣に座ってくれた事。
他に知り合いのいない自分を気遣ってのことだったのかもしれないけれど。
それでも隣に座って、笑顔を向けてくれて、たくさん話ができた。

それだけで今日は最高に幸せだ、と思えてしまって。
そこで満足してしまったことを

後からこんなに後悔することになるなんて、その時は気付けなかったんだー。








※※※※※※※※※※※※※※
「風の彩 2」や過去作品にも拍手ポチポチコメントもありがとうございました!お返事は次回に書かせていただきますね(*^^*)私の話に斎藤さんがガッツリ出てくるのは初めてかもしれません。なかなか書いていて楽しいキャラです(*´∇`*)
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