☆風の彩

☆風の彩 4

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セイと斎藤が付き合うことになった、と知ったのはバーベキューの日から一週間たった土曜日だった。

あの日から毎日のようにセイの家の坂下でセイの帰りを待ってみたりしたけれどタイミングが合わずに一週間会えずにいた総司は、遠慮せずに『会いたい』と連絡をとれば良かった、と今さら後悔する。
あの日の幸せをぼんやりと噛み締めて満足している間にあっというまに他の男に、それも斎藤にセイを取られてしまうなんて考えてもみなかった。


ショックのあまり声も出ない総司を目の前に、セイと斎藤の事を教えてくれた里乃は呆れたように溜め息をつく。
「ほんまになぁ...男ならしっかりせぇや。」
「里乃さぁん...」
ううっと涙を浮かべて自分にすがり付く大の男を里乃はよしよし、と慰めてやる。
大事な友達を振った酷い男、という印象だったのは最初だけで今ではこの情けなくも人懐こくて笑顔の可愛い総司の事をまるで弟のように思っていた。
はぁーと気が抜けた風船のように机に突っ伏している総司に里乃はそういえば、と話しかける。
「セイちゃんが色んな男の人と次々にお付き合いしとる理由って知っとる?」
「理由?」
里乃の言葉に総司は首を傾げる。
告白されれば付き合う、とは言っていたけど特に理由は聞いていないし最近の高校生はそんなものなのだろう、とくらいにしか考えていなかった。
「何か理由があるんですか?」
「前にセイちゃんから聞いたんやけど...」
セイちゃんには言わんといてね、と里乃は念を押してから話し始めた。
もともと色っぽい話しなどセイから聞いたことがなかったのに高校に入学してから次から次へと彼氏が変わっていく。
その様子を心配した里乃がセイにそれとなく聞いてみるとセイは『誰か』を探すために色んな男と付き合っているらしい。
その『誰か』とはセイの夢に度々出てくる男の事で夢では顔もハッキリ出てくるのに目が覚めるとすっかり忘れてしまっている。
それでもその人に会いたい、という気持ちはちっとも薄れなくて強くなるばかりだ、と。
夢の中で彼は必ずこう言うらしい。
『必ず来世で会いましょうね』
そこでいつも目が覚める。
すると、いつもセイは、泣いているー。

小さい頃から何度か見てきた夢だったが高校に入学する前に急に毎日のように見るようになった。
きっとこれはこの人に会える時が近付いているからではないか、と思い探すようになった、という。
「『誰か』を探して...」
総司が独り言のように呟くと里乃がうん、と頷いた。
そんな話、ロマンチック過ぎて信じられない、というのが世の中の殆どの意見だろう。
そういう運命的なものを信じたい年頃でもあると思うしセイの気持ちは里乃にも全く理解できないわけではない。
でも『誰か』が見つかるまで同じ事を繰り返していたらいつか痛い目に合うのではないか、とも思っている。
心底心配そうに話す里乃に総司は同意する。
「そうですよねぇ。女の子ですし、もしその『誰か』ではない人の子どもでも出来ちゃったら...」
総司は自分の言葉にゾッとする。
子どもが出来てしまう行為をセイが自分以外の他の男としている姿を想像するだけで吐き気がした。
「そうやね。今のところそこまで深い関係になる前に『違う』って思って別れてるみたいやけど。」
里乃の言葉に明らかにホッとする総司。
その能天気な様子を見て里乃がギロリと睨み付ける。
「でもな、セイちゃん斎藤はんと付き合うこと教えてくれた時に言うてたけど年上と付き合うの初めてなんやて。今までは相手も幼かったから良かったものの、今回ばかりはどこまで付き合いが進むかわからへんよ。」
「え...」
ふ、と総司の脳裏に思い浮かんだのは斎藤の得意気な笑顔。
『悔しかったら奪ってみろ』
そう言われているような気がした。
はぁーと大きな溜め息をついてもう一度机に突っ伏す総司。
「でも...もしかしたら斎藤さんがその『誰か』かもしれませんもんね...」
総司の気弱な発言に「あー情けない」と呆れた里乃は総司を置いて行ってしまった。

一人残された総司はぼんやりと先程の里乃の話を思い出す。
『誰か』を探している 、という言っていたあの話。
里乃には話さなかったけれど実は総司も同じような感覚があった。
小さい頃から誰と遊んでいても誰と付き合っても何処がポッカリ身体と心に穴が空いているような虚しい感じ。
セイのようにはっきりとした夢を覚えていることはなかったが朝目覚めたときに心がやけに苦しくて、そう。
泣いている時も、あったー。


セイが空から舞い降りてきた、と思ったあの日の心が満たされる感じ。
もしかしたら自分がずっと無意識に探していた『何か』や『誰か』がセイだったのではないか。

何故、その時に気づけなかったのだろうかー。


今すぐにセイに会いたい。
そう思うけれどもしもセイの探している『誰か』が自分ではなかったら。
今セイが一緒にいる斎藤がその『誰か』だったらば。

そう思うと漸く手にいれたかもしれないセイの幸せを自分の勝手で壊すことなど出来ない、と総司は唇を噛み締めた。



※※
例の坂の下の道は大学から総司の家までの帰り道でもある。
地方から出てきた総司は大学入学に合わせて近くのアパートを借りたので他に抜け道はなく、必ずその坂下の道を通らなくてはならないのだ。
もしもセイと斎藤が仲良く歩いている所を見てしまったら、と思うと怖くて今まではわざとのんびりと歩いていた道を最近では急いで駆け足で通るようになってしまっていた。

今日は土曜日。
セイと斎藤の話を聞いてからもう一月になる。
あれからセイたちには幸か不幸か会っていない。
しかし里乃からもその後の話も聞かないし、きっと二人は仲良く付き合っているのだろう。
こんなことになるならば気持ちだけでも伝えておけば良かった。
会ったばかりだから、とかセイのことを何も知らないから、とか何かと理由をつけていたけれど。
結局フラれるのが怖かっただけなのだと今は思う。

ふぅ、と大きく溜め息を付きながら空を見上げる。
昼過ぎから降り続いていた雨はまだ止みそうにない。
どんよりとした暗い空は益々総司の心を沈ませた。

(夜ご飯どうしよっかな...)

そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていると例の坂下の道に差し掛かった。
セイと出会ったあの日の夕方。
自分が買ってきたシュークリームを一緒に並んで食べたあのベンチをふ、と見つめるとなんとそこには雨でびしょぬれになったセイが座っていた。
「か、神谷さん!?」
総司は驚いてベンチに駆け寄るとセイに傘を差してやる。
「どうしたんですか!?こんなところで!びしょぬれじゃないですか!おうち、すぐそこでしょう?送るから帰りましょう?」
総司が慌てて鞄からタオルを引っ張り出してセイの顔を拭いてやる。
しかし拭いても拭いても髪から滴り落ちてくる水滴で直ぐにびっしょりになってしまう顔を見て、総司は漸くセイが泣いていることに気付いた。
「...神谷、さん?何かあったんですか...?」
総司の言葉にセイが小さく首を横に振る。
一向にベンチから動こうとしない困ってしまった総司はセイの手を引っ張るともう一度声をかけた。
「ね、とりあえず帰りましょう...?」
「うちは!うちには、今帰りたくないんです...。」
訴えるような瞳で見つめられ、総司の心臓が高鳴った。
「どうして...ケンカでもしたんですか?」
総司の優しい声にセイも少し安心したのだろうか、涙をポロポロ流し始めた。
「斎藤先輩が来てるから...」
「え...じゃあ、斎藤さんとケンカしたんですか..?」
セイの口から斎藤の名前が出てきたことに総司の胸がチクリと痛むが今はそれどころじゃない、と気持ちを入れ替える。
「ケンカ、というか...」
俯いて口ごもるセイに、総司は困ったように溜め息を吐くと
「とりあえず家にいらっしゃい。」
とセイの肩を抱いた。


※※
坂道から徒歩10分ほどの総司の家に着くととりあえずシャワーを浴びるように、とセイにタオルと着替えを手渡した。
流石にずぶ濡れで身体も冷えていたセイは素直にシャワーを浴びる。
その間かすかに浴室から聞こえてくる水音をなるべく聞かないようにしながら総司はキッチンでお湯を沸かした。

全くの下心がない、なんて言ったら嘘になるけれど決してどうこうしようと思ってセイをここに連れてきた訳ではない。
本当に何があったのか心配だったし一人であの場に残して置くわけにはいかなかった。

里乃に聞かれたらまた「情けない」なんて言われそうだけれどセイの事を大事に思うからこそ絶対に手は出さない、と心に決めて総司は一人で頷く。
「沖田先輩...あの、シャワーと着替え、ありがとうございました。」
髪もまだびしょびしょのまま部屋に戻ってきたセイの姿に直ぐにでも理性の糸がほどけそうな心に「平常心平常心」と言い聞かせながらセイの髪をゴシゴシと拭いてやる総司。
「ドライヤー使います?」
総司の言葉にセイは頭を横に振った。
総司がセイの頭からタオルを取るとボサボサの髪の毛できょとんと、と自分を見つめるセイの姿がまるで昔飼っていた犬みたいだな、と思いクスリと笑ってしまった。
「な、何ですか?」
総司の笑顔にセイが顔を赤らめる。
「いえ、なんでも...コーヒー飲めますか?」
「はい...。」
そこに座ってて、と総司は小さいソファーを指差す。
セイがちょこん、と座ったのを確認するとキッチンでコーヒーを入れ始めた。

「はい、どうぞ。お砂糖は?」
「...ください。ミルクも...」
恥ずかしそうに目を反らして頼むセイは本当に可愛い。
今すぐに、抱き締めたい。
総司は思いを掻き消すように熱いコーヒーを一口飲んだ。
「...それで?何があったんですか?」
セイは甘くしてもらったコーヒーをチビチビ飲みながら言葉を濁す。
「あの、...斎藤先輩と...」
もじもじとして先に進まないセイを総司はじっと見つめる。
「斎藤さんと?どうしたの?」
「...」
黙ってしまったセイに総司は溜め息をつくと何かお菓子でも持ってこようかと立ち上がる。
すると意を決したセイが大きな声を出した。
「あの、斎藤先輩と!ホテルに、行ったんですけど!!」
「うんうん、ホテル...?えっ!?ホテル!?」
驚きすぎた総司は皿に移そうとしていたポテトチップスをバラバラと床に落としてしまう。
「わっ!沖田先輩、大丈夫ですか?!」
セイが慌てて床に散らばったポテトチップスを拾う。
総司は落ち着け落ち着け、と心の中で唱えながら一緒にそれを拾った。
「え、と..それで?ホテルに行った、と。それで?どうしたんですか?」
チラ、とセイの顔を見れば今にも火を吹きそうなくらい真っ赤な顔をしている。
男の人に、それも久し振りに会った総司にこんなことを話すのはどんなに恥ずかしいだろう。
そう思うと途端に総司の中に同情の心が生まれてきてちっぽけな嫉妬など感じている時ではない、と腹をくくった。
「...ホテルに行ったはいいんですけど...あの、やっぱり怖くなっちゃって斎藤先輩がシャワー浴びてる間に私、逃げて来ちゃって...」
私最低ですよね、とセイが顔を両手で覆う。
「斎藤先輩から直ぐに電話もメールも来たんですけどどうしても出れなくて。そしたら、斎藤先輩車だったんですけど私よりも早く家に来たらしくて...」
だから家に帰れないのか、総司は納得する。
「そうだったんですか...。でも、きちんと斎藤さんと話したほうがいいですよ?」
グスグスと泣きじゃくるセイの頭を総司が優しく撫でてやるとセイの泣き声がますます大きくなってきてしまった。
総司はふう、と大きく息を吐くとぎゅっと、その小さな身体を抱き寄せる。
里乃の思っていた通り今までは付き合いをしてる、とは言っても友達の延長のような感じで恋人同士のするようなことは大してしてきてなかったのだろう。
それがついに大人の付き合いを目の当たりにして斎藤には悪いけれどセイはよっぽど怖かったに違いない。
「...まったく...私の服を提供しますからさっさと泣ききってしまいなさい。」
呆れたような、でも、暖かな総司の声にセイは、あれ、と思う。
この温もりを、この言葉を、自分は確かに知っている。
初めて包まれたはずの総司の長くて逞しい腕が、身体がどことなく懐かしく感じてセイはそっと瞳を閉じた。
その時。
「あ....。」
セイが総司の腕の中で身体を固める。
「...どうしました?」
総司が心配そうにセイの顔を覗きこむとセイが震える声で呟いた。
「色が、見えたんです...」
「色?」
何を言っているのか分からずに総司が首を傾げるとセイが堰を切ったように話し始めた。
「私..私夢を見ていたんです。毎日同じ夢を。同じ人が出て来て同じ事を言うんです。『また来世で』って。それでも起きた時にはその人の顔を全く覚えていなくて。でも、その、夢の景色はぼんやりと覚えているんです。まるで昔の映画みたいに白黒で、たまに、本当にたまにその人の着物が青くみえるだけで...」
総司は里乃から同じ話を聞いていたため直ぐに理解出来たが初めて聞く話ならばきっと何の事か全く分からなかっただろう。
それくらいセイは興奮して話し続けいていた。
総司はセイが少しでも落ち着くようにゆっくりと背中を擦ってやる。
「それで...今、沖田先輩に抱き締められて...見えたんです。色が...」
「え...?」
それは、どういうことなのだろう、と総司の胸が高鳴る。

「見えたんです。彩り鮮やかな景色と、夢の中の男の人の笑顔が...!」

泣きじゃくるセイの姿とふ、と重なる着物を着た少女の姿。

『また、来世で』

少女が、涙を瞳一杯に溜めながら、そう言って微笑む。



「....神谷さん....!」
総司は涙を溜めてセイをもう一度抱き寄せる。
先程よりも、もっと強い力で。
言葉で上手く伝えられない分の気持ちを込めて、強く、強くー。


「沖田先輩...」
ゆっくり身体を離したセイが甘えた声で囁く。
二人が無言で見つめ合う、と自然に少しずつ唇が近づいていく。

しかしあと一ミリで触れ合うという距離で総司が顔を背けた。

「...続きは...ちゃんと斎藤さんと話してからにしましょう...?」
総司の言葉にセイが素直にコクンと頷く。
総司はそっとセイの額に口付けを落とすともう一度、セイの身体を抱き締めた。




※※※※※※※※※※※※
「風の彩」や過去作品にも拍手ポチポチありがとうございました(*^^*)早くお返事書きたいー!と思いつつ。「風の彩」の連載が終わってから全て書かせていただきますね(>_<)
「着物を提供しますから..」の台詞を確認するために一巻読んでたらまあ、まあ!沖田先生の格好いいこと!!溜め息が出ちゃいましたわ。
いつものお礼になりますが拍手やコメントとても励みになっています。読んでくださり本当にありがとうございました。
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~ Comment ~

お久しぶりです

すっかりご無沙汰してしまいました。
風の彩、読みました!
久々の現代版もいいですね(^^♪
先生がちょっぴり頼りない感じながら(笑)、好青年でほんわかしちゃいました。
セイちゃんは現代でも清く正しい女の子ですね~
斉藤さん、どんまい(笑)だけど、貴方がいるから先生とセイちゃんも幸せなのです!

そういえば、先週総司忌だったんですね~
とても近くのホテルに所用で泊まっていたのに、すっかり失念していました。
あ~あ、簡単に行けたのになあ・・・

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