☆風の彩

☆風の彩 5

 ←☆風の彩 4 →拍手コメントありがとうございました!

もしも私の探していた『誰か』があなたじゃなかったら。
そう思うと涙が出た。

きっと、私は『誰か』ではなくて『あなた』を探していたのだと
今は、思うんだー。


※※

暫く総司とセイが黙って抱き合っているとセイの携帯電話が鳴った。
二人が同時にビクリとして顔を見合わせる。
そして総司が小さく頷くとセイも唇を噛み締めながら携帯を手に取った。
「あ...里ちゃんだ...もしもし?」
電話の相手は斎藤ではなく里乃だったらしい。
きっといつまでも帰ってこないセイを心配して里乃からの連絡なら出るかもしれない、と佑馬が連絡したのだろう。
「うん。うん、ごめんね。大丈夫。今から帰るね。...ううん、平気。話したいから待っててもらっていいの。」
じゃあね、とセイが電話を切る。
「里乃さん、心配してたでしょう?連絡しておけば良かったですね。」
総司の言葉にセイは首を振る。
「私、帰りますね。...斎藤先輩に、ちゃんと話してきます。」
真っ直ぐに自分を見つめる見つめるセイに総司は笑顔で頷いた。


二人が外に出ると既に雨は止んでいた。
遠くにはほんのり赤く染まった空が見える。
総司はそっとセイの手を取ると黙って歩き始めた。
言葉を紡ぐのも勿体無い。
そんなことさえ思えるような暖かな空気だった。

セイの家の前に着くと立ち止まったセイが繋がれた手をそっと離す。
「..あとで、電話してもいいですか?」
セイの言葉に総司は微笑む。
「いつでも、どうぞ。」
そしてもう一度二人は手を握りあって、別れた。


セイが家に入るのを見届けてから総司は坂を下りだす。
あの時。
セイに初めて会ったあの朝。
この坂を勢いよく自転車で降りてくるセイの姿を思い出す。
どこにぶつけていいのか分からない嬉しさと、斎藤に対する申し訳ない気持ちと、遠い昔を思い出したような切なさと。
いろんな気持ちを発散したくて、あの時のセイと同じように総司は思い切り坂を走って降りていく。

ようやくすっぽり抜けていた穴が心地よく収まったこの感じ。
セイに出会ったあの瞬間からもうすでに、自分の周りの世界は鮮やかに彩られていたんだ、と総司は気付く。
爽やかな風が吹いて総司の髪を揺らす。

『また来世で』

そう言って泣いてばかりいた少女が、漸く笑って遠くの空へ消えていくような気がした。



※※

総司が一人夕食を食べ終えてシャワーを浴び終えるとちょうどセイから電話がかかってきた。
「はい!」
勢いよく電話に出た総司に少し驚いたのか電話の向こうでセイがクスリと笑った。
「沖田先輩、今日はありがとうございました。」
「いえ..僕は何も。...風邪ひいてませんか?」
総司の優しい言葉にセイは、大丈夫です、と笑う。
「...斎藤先輩に話しました。」
「...そうですか。」
「私。私、きっと沖田先輩が『誰か』って気付く前から好きだったんだと思う。」
「え...?」
「沖田先輩が『誰』でもいいんです。あの日自転車でぶつかった時から。」

きっとあなたのことが、好きだったー。

二人はしばらく電話越しに黙りこむ。
優しい沈黙を先に破ったのは総司の方だった。
「神谷さん...今から会いに行ってもいいですか?」
「え...」
「...早く、会ってさっきの続きがしたい..。」
セイは先程総司の部屋での出来事を思い返す。
あと一ミリで重ならなかった唇。
『この続きは後で』
総司の甘い囁きが未だに耳に焼き付いている。
「はい...私も、会いたい...」
セイの返事を聞くやいなや総司は部屋を飛び出す。
電話を切るのも忘れて走る総司の足音が電話越しに聞こえてセイは思わず笑ってしまった。
クスクスと笑いながら一緒に涙が溢れる。

早く、会いたい。
早く抱き締めてほしい。
もう二度と、離さないでほしいー。


電話を切ってから15分もしないうちに総司から『着いた』とメールが来た。
セイはコッソリと家を抜け出すと門の前に立っていた総司に勢いよく抱きつく。
「沖田先輩、会いたかった...!」
セイが素直に甘えてくれる事が嬉しくて、でも少しまだ恥ずかしくて総司はセイを抱き返すと
「はは...さっき会ったばかりなのに..」
と笑った。
さすがに家の前では周りの目が気になってしまい二人は手を繋いで近くの公園へ移動する。
誰もいない真っ暗な公園のベンチに並んで腰かけると総司はずっと気になっていたことを問いかけた。
「あの...斎藤さんは、なんて?」
セイはベンチの下で足をブラブラさせながら答える。
「...私が幸せならそれでいいんだって。」
総司の頭に斎藤の無表情なのにどこか悲しそうな笑顔が浮かぶ。
斎藤もきっと既にセイの気持ちが自分にないことは気付いていて、それでも今までの関係から気を使って別れを言い出せないセイにきちんと考えてほしくてあんな行動をとったのかもしれない、と総司は考える。
適当に、相手の気持ちも考えずにホテルに連れ込むような男には到底思えなかったから。
「そうだ。沖田先輩って剣道やってたんですか?」
「え?はい。大学入る前までやってましたよ。」
結構強かったんですよ、と総司は素振りの真似をする。
「やっぱり!斎藤先輩、小学校の時に沖田先輩と試合したことがあるんですって。名前と顔を何となく覚えていてその時の表彰台の写真を見て思い出したって言っていました。」
「ええー!そうだったんですか!」
子どものときからずっと続けていた剣道は大して練習も熱心にしていなかったのに才能があったのか出場した大会ではよく優勝していた。
そういえば小学校の大会で一度だけ決勝戦で苦労したことがあったのを総司は思い出す。
その相手が確か、無表情な真面目そうな男だったことを覚えていて、あれが斎藤だったのか、と総司は納得する。
大学に入ってから一度も竹刀を握っていないけれど今ならばまた、真面目に剣の道に向き合える、そんな気がした。
「そうかぁ。だから会ったことあるような気がしたんですね。」
そうかそうか、と一人で頷く総司を見つめながらセイがニコリと微笑んできた。
「斎藤先輩、また勝負したいって言ってましたよ。」
「ええー。今度は絶対に負けますよぅ。」
別れ話の最中にそんな話をしていたのか、と驚く反面きっと嫌な別れかたではなくきちんと気持ちを伝えられたのだろうと思うと安心した。

柔らかい沈黙の後、総司はそっとセイの肩を抱くと反対の手で柔らかな頬を撫でる。
『続きがしたい』と言っていた電話での言葉を思い出してセイは頬を染めた。
ゆっくりと二人の顔が近づき、唇が触れる少し手前でセイの顔が反射的に後ろに下がる。
その恥ずかしがる仕草さえも全てが愛しくて、総司はクスリと笑うと肩を抱いていた手でセイの頭を押さえるとそのまま唇を重ねた。
そっと閉じた瞼の裏に色鮮やかな世界が広がる。
ぱあっと幕が開けたように広がる彩りに混じって何度も夢に出て来たあの人が風に溶け込むように消えていった。
消える直前、セイの方を向いて
『ありがとう』
そう言ったような気がしたー。


唇を一度離しては、もう一度口付ける。
角度を変えながら何度も、何度も。
どれがどちらの舌なのか分からないくらいに激しく、でも優しく口付けをする二人。

漸く満足して唇を離すと何だか寂しくて、でも満たされていて涙が溢れた。
「神谷さん...これからは、ずっと一緒にいましょうね。」
総司の言葉にセイはコクコクと頷く。
「神谷さん、これからはずっと蟹の殻を剥いてもらえると思ったでしょう?」
涙が止まらないセイを笑わそうとして総司が思い出したように冗談を言う。
あはは、と泣きながらも漸く笑ったセイが首を縦に振った。
「蟹の殻もそうだし、美味しいコーヒーも淹れてください...。」
総司はセイの可愛いお願いに、はいはい、と返事をして、もう一度唇を重ねる。

『また来世で』

もう、二度とそんな言葉はいらない、と思った。
だって、そんな約束がなくたって絶対にあなたを見つけてみせるから。

どんなに時が経とうと、何時だってー。



景色の中に溶けていったあの人にそう告げると、木々を揺らす柔らかな風があたたかな色に彩られていくように見えた。



ー終ー

※※※※※※※※※※※※※※
斎藤先生...生まれ変わっても同じような役回りでゴメンね(>_<)久し振りの現代版!一番悩んだのは「メール」という言葉。いや、今時メールなんてしないだろう、と思い立つLI○E?いや、それLI○E さんにおこられない?(その前にLI○E関係者様はよまないと思う笑)じゃ、何よ、メールでもLI○Eでもなければmes○enger?とワケわからないループにはまったのでもうメールにしました(^^; それ以外は言葉遣いとかそこまで気にせず書けるので楽しく書けましたよ♪でもどうしても「キス」って書くのがこっぱずかしくて「口付け」と書いてしまう私。。
長々とお読みくださいまして本当にありがとうございました(*^^*)そして何よりもリクエストネタをくださいました月葉様!本当にありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたならば幸いです。
そして過去作品を含め拍手やコメント下さった方々!本当にありがとうございました!次回の雑記にてお返事書かせて頂きますね(*´∇`*)
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素敵な物語をありがとうございます。

ゆまっこの風さま

初めてコメントをさせていただきます。
風光るはずーっと読んでいて、好きなお話だったけれど、最近また好きな波が押し寄せてきて。
そんな中、9月に入ってからぐらいにブログに辿り着きました。
ゆまっこの風さまの物語、文章が本当に綺麗で。
早速ファンになってしまいました。
癒しの時間を、ありがとうございます。
rysa

風の彩楽しかったです。どうやって仲良くなっていくのかなぁと思ってたら、バーベキューとは、とても新鮮でした。(*´∀`) 最後の二人の前世の記憶に触れた部分がとてもほっこりしました。結ばれた二人に幸あれ。私は風光る歴15年です。(*≧∀≦*)
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