◆黄昏月

◆黄昏月〈四〉

 ←へたっぴなりに頑張ったのよ。そしてお返事。 →読みましたか?そしてお返事。
次の日朝食を終えると、来客があるので部屋から出ないように、とセイは部屋に閉じ込められてしまった。
仕方がないので暫く部屋でぼんやりしていたものの何となく落ち着かず、台所仕事でも手伝おうと廊下に出るとと総司の部屋から話し声が聞こえてきて思わず耳を澄ましてしまう。
部屋の中からは総司と法眼、そしてもう一人男の声が聞こえる。

「そんなに元気なら戻って来れるんじゃねえか?」
怒ったような口調の男の言葉に法眼が、まあまあ、と宥めている。
「全部記憶が戻った訳じゃねえんだ。中途半端な今が一番大事な時だぜ。今ここでまた余計な情報が入って記憶が拗れちまうと益々おかしくなるかもしれねえからな。」
二人の会話に総司はただ、はぁ、と気のない返事をしているだけだ。
「とりあえず沖田はあと三日。約束の七日間様子をみさせてくれ。稽古だけはさせておくから。」
法眼のその言葉に総司は漸く嬉しそうな声を出す。
「はい!毎日朝晩と、稽古は欠かさずやっていますから。」
ニコニコと話しているのだろうということが襖の此方まで伝わってきてセイまで思わず笑ってしまう。
「...法眼がそう仰るなら仕方ありませんな。..しかし神谷はどうなんでしょう?」
男の言葉にセイの身体が固まる。
『神谷は』
そういえば壬生寺でも子どもたちが『神谷の兄ちゃん』がどうとか話していた気がする。
一体『神谷』とは、誰ー?

「そうだな...清三郎の方は...まだどうにも分からん。未だに夢の中だ。」
法眼の溜め息混じりの言葉に土方も、あーと大きな声を出した。
「総司がいないのはまだ何とかなるが神谷がいないと結構大変なんだぞ...」
土方のついつい出てしまった本音に法眼と総司が声を出して笑いだす。
「なんだかんだで土方さん、神谷さんの事が大好きですもんね!」
「馬鹿野郎!そういう意味じゃねえよ!」
きゃっきゃと楽しそうな声が響く部屋をセイは肩を落として通りすぎる。

『神谷さん』は皆に心配されて、必要とされている。
沖田先生にもこうして会いに来てくれる人がいる。

私は。
私には、誰もいないのだろうか。

私は、一体
誰なのだろうかー?

セイはそのままふらふらと外へ出ていく。
昨晩『頂妙寺へ行く先には一緒に』と総司に言われたことを忘れた訳ではなかった。
ついさっきまでは一緒に行ってほしいと思っていた。
けれど、今の会話を聞いていたら自分だけ一人ぼっちな気がしてしまって、早く家族に会いたかった。

鴨川沿いを歩いていくと直ぐに見慣れた景色が見えて来てセイの足が早まる。
あの橋を渡れば直ぐに頂妙寺が見える筈。
そう、あの大きな裏門のすぐ横に京に来てからずっと住んでいた家が、ある。


※※
総司が土方を見送るともう日が高く昇っていた。
こんな時間まで一人で暇をもて余していただろうな、と総司はセイの部屋へ向かう。
「おセイさん?」
部屋の外から声をかけるが一向に返事がない。
おかしいな、と思っていると廊下の向こうから法眼が血相を変えて走ってきた。
「セイは部屋にいるか!?」
「いえ...今声をかけたのですが返事がなくて。何かあったのですか?」
「今土方と外に出たら、今しがた顔色の悪い女子が診療所から出ていったが大丈夫か、と言われてよ。」
法眼は早口で説明すると総司を押し退けて部屋の襖を開ける。
「いえねな...。あいつ、どこ行きやがった...」
法眼が額から汗を流しながら呟く。
総司も部屋を見渡しながらセイの行き先を考えていると昨日の夜の会話を思い出した。
「頂妙寺...」
「あ?」
「きっと、おセイさん頂妙寺に行ったんです!ああ、もう。私も一緒に行くって言ったのに!」
総司はぐしゃぐしゃと髪を掻き乱すと踵を返し玄関へと走っていく。
「おい!沖田!どういうことだよ!」
「私、迎えに行ってきます!」
そして法眼の方も振り返らずに一目散に外へ飛び出していった。


※※
「...家が、ない...。」

セイはポツンと寂しそうに茂る大楠の木の下で呆然と立ち尽くす。
間違いなく此処は自分が暮らしていた場所。
しかし、そこには家はおろか、生活していた兆しが見える物の一欠片さえも残っていなかった。
「うそ...何故...」
セイはその場にへたりと座り込む。涙さえも出てこない。頭が今まで以上に混乱しているようでぶつけた箇所がズキズキと痛んだ。
思わず頭を抱えて瞳を閉じるとふ、と瞼の上に総司の顔が浮かぶ。
しかし昨晩見たような優しい眼差しの彼ではない。
まるで冴えた月のように詰めたい瞳をして
『瞳を閉じていなさい』
低い声でそう言うと物凄い速さで剣と血が、舞った。

「...誰...貴方は、誰...?」

セイがポソリと呟くと後ろから肩を叩かれた。
「お嬢さん、具合でも悪いのですか?」
セイがゆっくりと後ろを振り返るとセイの顔を見た声の主が驚きの声を出す。
「神谷..なのか...!?」
「え..兄、上..?」


※※
木屋町というのは朝から晩まで人で賑わっている。
狭い通りを行き交う人を器用に避けながら総司は頂妙寺へ向かって全速力で走っていた。
鴨川を渡る橋が見えてきた所で、ふと考える。

どうして自分は頂妙寺までの道を知っているのだろうか。

足は止めずにそんなことを考えていると角から出てきた駕籠とぶつかりそうになり慌ててそれを避けた。
身が軽い。
何故こんなに身が軽いのだろうか。
自分はいつも動きにくい袴を履いて、重い刀を二本差して歩いていた筈だ。京に来てから、ずっと。
堂々と二本差して歩けるのが嬉しかったあの頃も、こうして頂妙寺へ向かっていた。
そして、そうだ。
頭をぶつけたあの時も自分はセイを探して走っていた。
セイに『何か』を伝えたくて、その『何か』はとても大切な事でー。

途切れ途切れの記憶の中に思い出すのはセイの顔。
初めて会った時の不安そうな表情。そう、一緒に池田屋へ乗り込んだ時のとても頼もしい横顔も。
一緒にお団子を食べるときの嬉しそうな顔も、泣き虫の木上で鼻水を流しながら思い切り泣いている顔も。
土方さんに怒られた、と言って頬を膨らませる子どものような顔も、ふ、としたときに見せる急に大人びてきた女子の顔も。
『沖田先生』と自分を呼ぶ、あの笑顔もー。


ああ、そうだった。
この溢れる想いを、セイに伝えたかったんだ。

漸く繋がった記憶が総司の走る速度を速めさせる。
会いたい。
早く、セイに、『神谷さん』に会いたい。
会って、伝えたいんだー。


総司は頂妙寺の裏門の前に着いて息を整えながらぐるっと見回してみるがセイらしき女子は何処にも見当たらない。
でも、どこかに行くとしたら絶対に此処なはずだ、と総司は近くを歩いている人に尋ねる。
「すみません。あの、18くらいの瞳の大きな女子を見かけませんでしたか?青い着物を着ていて、背はこのくらいで...」
何人かに尋ねるが皆に、知らない、と言われてしまいどうしよう、と寺の中を何となく覗いてみると中から住職が出てくるのが見えた。
総司は、すみません、と大きな声で住職を呼び止めるとセイの事を尋ねる。
「ああ!あそこの富永診療所のお嬢ちゃんやね。今しがた具合が悪そうな所を親切な人が解放してくれはって今寺の中で休んで...。」
「ありがとうございます!」
住職の話を最後まで聞かずに総司は寺の中へ走り出す。
本堂の中を覗きこんでも人の気配はなく、総司が裏手にある墓の方へ歩いていくと奥に二つの人影が見えた。
小さな青い着物の後ろ姿と、もう一人は男ー?
「神...おセイさん!」
総司がセイを呼ぶと二人が同時に振り向く。その隣にいた男の顔を見て総司は瞳を丸くした。
「え、斎藤さん..?どうして、ここに?」
総司が二人の近くまでやってくるとセイは総司と斎藤の顔をキョロキョロと交互に見る。
「お二人ともお知り合いなのですか?あの、斎藤様は兄の友人だそうで、今日はこうして墓参りに来てくださったようで...」
そう説明するとセイの瞳からポトリと涙が溢れた。
「おセイさん...」
総司は斎藤を押し退けてセイに近づくとそっと肩を撫でる。
その様子に苛つきを隠せない斎藤が総司の肩をぐい、と引っ張ると
「沖田さん、どういうことか説明してもらおうか。」
と低い声で呟いた。
「あ、えっと、はい。あの...」
セイの前で何をどこまで話していいものか、と口ごもっていると後ろに立っていたはずのセイが突然総司に身を預けてきた。
総司が慌てて振り向くとセイが真っ青な顔で総司にしがみついている。
「神谷さん!?大丈夫ですか?!神谷さん!?」
焦った総司がつい『神谷さん』と呼んでしまい、セイは悲しそうな顔で総司を、見上げると
「私は、だれ...?」
そう呟いてその場に倒れてしまった。
「とりあえず、法眼の所へ運びましょう。」
総司はそう告げると斎藤の返事を待たずにセイを抱き上げ一目散に木屋町へと走っていく。
斎藤も慌ててその後を追いかけた。




※※※※※※※※※※※※※※※※
一話が短くて申し訳ないです(>_<)セイたんが~思い出して~くれないのよ~どうしよう~笑
前回雑記にや過去作品にも拍手ポチポチコメント申し訳ありがとうございました!お返事次回に書かせていただきますね。コメント頂いた方には必ずお返事書かせて頂いてますので(いらないなんて言わないで...)ご面倒ですがコメント下さった方はそのすぐ後の日にちの「拍手コメントお礼」の雑記を確認して頂けると幸いです(>_<)いつも本当にありがとうございます(*^^*)
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