◎短編

★君がため

 ←拍手コメントありがとうございました! →今更気付いた事。そしてお返事
※紫音様からのリクエスト『ほのぼの話』です。ほのぼの、というか少し切なくなってしまったかな。




※※※※※※※※※※※※※※※

例えば、
貴女に出会えていなかったら、どんな人生だったのだろう。

そんな事を考えていたら、また一日が過ぎていった。

京での慌ただしい日々が夢だったのでは、と思えるくらい毎日がゆっくりと流れていく。
こんな穏やかで優しい時が過ごせるとは想像もしていなかった。

きっと、自分はいつまでも風のように走り抜けて、気がついたら何処か遠くの空にいるものだと思っていた。

『貴女がいてくれたから、私は此処にいられるのでしょうね』
いつだったか、そんな事を伝えたら困ったように、少し寂しそうに貴女は笑った。


※※
「今日は『もしも』の話をしませんか?」
洗濯物を綺麗に干し終えて、薬と共に暖かいお茶を運んで来てくれたセイに総司は妙な提案を掲げた。
「もしも、ですか?」
薬を飲ますために背を支えて総司を起こしながらセイは首を傾げる。
苦い薬は何度口にしても慣れることはなくて、今日もその匂いが漂って来たときから胸焼けがした。
仕方なく茶と一緒に流し込んで、口直しに、といつも一緒に持ってきてくれる干菓子を直ぐに口に放り込む。
舌の上で転がしていると、ホロホロと形が崩れてあっという間に溶けてなくなってしまった。

口の中を濯ぐようにもう一度茶を飲むと直ぐに布団の中へ寝かされる。
トントン、と子どもの時に姉にしてもらったように身体を優しく撫でられると、何とも言えない暖かさに包まれてしまう。
うつらうつら、と眠ってしまう前に、と総司がセイの手を掴んだ。
「そう。...例えば。『もしもこの世に甘味がなかったら』。貴女、どうします?」
総司らしい例え話にセイは思わずプッと吹き出す。
「甘味が無かったら、ですか?私は...なんとかなるような...。でも確実に沖田先生の笑顔は減りそうですね。」
「えー。なんですよう。貴女だって何だかんだいって結構甘いもの好きじゃないですか。」
総司がぷう、と頬を膨らませる。
京にいた頃は暇さえあれば二人で甘味屋巡りをしていた。
新しく店が開けば町民の大行列に交ざって並ぶことも良くあったし、互いに別々の仕事で出掛けるときは必ずといっていいほど団子や饅頭を土産に買って帰った。
「沖田先生は一つしかないおやつを半分こするときは、必ず小さい方を私にくれました。」
セイが人差し指を立てながらそう言うと総司は、そうでしたかね、と首を傾げる。
「だって、貴女の方が身体が小さいのだから仕方ないでしょう?」
総司の子どものような言い訳にセイは、はいはい、と笑いながら総司の手の甲を撫でた。

「あとは...そうだなぁ。『もしも天然理心流がこの世になかったら』は?」
総司は自分で言っておきながら、そんなことはあり得ませんけどね、と小さく付け足す。
セイは少し困ったように微笑みながら、そうですね、と考える。
「それは...やっぱり寂しいですけれど。もしも天然理心流が無かったら先生は剣を振っていなかったかもしれませんよね。」
セイの言葉に、そうかもしれません、と頷く総司。
「そうなると...甘い物ばかり食べてゴロゴロ寝てばかりで、こーんな身体だったかもしれません。」
セイが腕を広げて大きなお腹を表現すると総司が、あはは、と声に出して笑った。
すると、コホン、と小さな咳が出てセイが優しく背を撫でる。
「...そんなに大きな身体で神谷さんのことを抱き締めたらあっという間に潰してしまいそうですね。」
クスクス笑いながら話す総司にセイは少し顔を赤らめながら、そうですね、と答える。
きっと、総司がどんな姿でもぎゅっと抱き締められたら潰されるどころか、とても幸せなのだろうな、と思うと涙が出そうになった。

「じゃあ、次は...神谷さん、何かありませんか?」
「うーん。そうですね...急に聞かれると難しいですね。」
それでもセイは一生懸命考える。
総司がとても楽しそうだったからこの遊びに付き合ってあげたい、そう思っていた。
「...そしたら...。『もしも天下泰平の世の中になったら』何がしたいですか?」
「天下泰平。貴女、前にもそんな大事な願い事していましたよね。」
セイの提案した『もしも』に総司はこの娘らしい、と微笑む。
「そうだなぁ。神谷さんは?何がしたいですか?」
「私ですか?そうですねえ...。たくさんありますけど、美味しい物も食べ歩きしたいし、あ、旅にも行ってみたいんです。副長が前に話していたじゃないですか、温泉。温泉に行ってみたいんです。」
キラキラと瞳を輝かせて話すセイの顔をニコニコと見つめながら、うんうん、と頷く総司。
「沖田先生は?何がしたいですか?」
セイが嬉しそうに問いかけると総司は、そうですねぇ、と空を見つめる。
「私はね、ただひとつだけ。」
「何ですか?」
身を乗り出してセイが顔を覗きこんでくる。
総司はじっ、とセイを見つめるとその柔らかな頬をそっと撫でた。
「もしも泰平の世になったら、貴女と..」
「....」
セイの顔がみるみるうちに赤くなる。
その様子に総司はクスリと笑うと
「やっぱり秘密です。」
と舌を出した。
「えっ気になります!教えてくださいってば!」
セイが頬を膨らませながら総司が被っている布団をぺしぺしと叩く。
総司は、あはは、と笑いながら布団を頭まで被った。

『もしも泰平の世の中が訪れたら、貴女をお嫁さんに貰いたいです』

喉のここまで出かかったその願い事。
咳と一緒に吐き出してしまえば良かったのに、こういうときに限って咳は出ないのだから嫌になる。
でも、何となくセイにも本当は伝わっているような気がしたから。
今日はこのままでいいかな、と思ったんだ。

「次は、どうしようかな。『もしも』...」
総司は布団からちょこんと目のあたりまで飛び出してきて、セイの顔を見る。
本当はずっと聞きたかったことがある。

『もしも、私がいなくなったら貴女はどうしますか』

そんな事を聞いたらきっと貴女は泣くだろうから。
いや、もしかして『縁起でもないことを言わないでください』って怒るだろうか。
どちらにしろ。
ずっと聞きたいようで、やはり今日も聞けなくて。

「もしも、何ですか?」
セイが少し心配そうに総司の顔を見つめる。
総司は布団から手を伸ばすとセイの腕をぐい、と引っ張ってその暖かな身体を抱き締めた。
「...今日は、もう疲れてしまったのでおしまいにします。」
総司がそう言うとセイは腕の中でコクリと頷いて先程してくれたように優しくトントン、と背中を撫でてくれた。
心地よい刺激と、セイの暖かさと柔らかさと、甘い香りに癒されてうとうとと眠りにつく幸せな、でも切ない時間。

瞳を閉じると瞼に浮かぶのは貴女の顔ばかり。
例えば、大好きな甘いお菓子を食べる時。
貴女がいなかったらば、美味しさは半分になっていたのかもしれない。
土方さんに怒られて殴られた時なんかは、貴女がいたから痛みが薄れていたのかも。
あとは、そう。
池田屋で不甲斐なく倒れたときは、貴女がいなければもう命はなかったのかもしれないし、
大事な仲間との別れが続いた時なんかは、貴女が私の分まで泣いてくれたから強くいられたのかもしれない。

誰かの為に命を捨てることが惜しくも何ともなかったのに。
貴女に出会って、恋をして。
初めて『誰かの為に生きたい』と思ったんだ。


「君がため 惜しからざりし 命さえ ながくもがなと 思ひけるかな」
「え?」
ポソリと呟いた声が聞き取れなくてセイは総司を見上げる。
総司はニコリ、と微笑むと
「有名な歌ですよ。前に土方さんに暇潰しにって歌集をもらったんです。」
「へえ。さすが副長。あまり沖田先生に歌なんてピンときませんけど。」
セイの言葉に総司が頬を膨らます。
セイはクスクスと笑いながら眠りを促すように優しく総司の背中を擦る。
「では、明日は歌でも詠みますか。」
「そうですね。豊玉さんに負けない歌でも詠んでみますか。」
二人してクスクスと笑っていると、いつの間にかセイの方が先に眠りについてしまった。

総司はセイの背中に手を回して自分にしてくれていたようにそっと撫でてみる。
小さな寝顔がとても愛しくて。
あと一時、いや一瞬でもいいから長く、長く見つめていたいと思う。

貴女に出会えて、本当に良かった。
私はとても、幸せでしたー。




※※※※※※※※※※※※
百人一首の一つでもある有名な歌。
『君がため 惜しからざりし 命さえ 長くもがなと 思ひけるかな』
現代語訳は
『あなたのためなら、捨てても惜しくはないと思っていた命でさ
 え、逢瀬を遂げた今となっては、(あなたと逢うために)できる
 だけ長くありたいと思うようになりました。』
二人が少しでも長く、共にいられますように、という願いをこめて。
紫音様、リクエストありがとうございました!やはりほのぼのは苦手なのか(汗)ちょっと違った方向に行ってしまい申し訳ないです(T^T)
 
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