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◆鬼神

◆鬼神 三

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旅路を共にした藤田は案外よく喋る男だった。
今朝副長室で挨拶をした時は礼儀も正しく爽やかそうに見えたがあの場では猫を被っていたのだろうか。
道中総司と同い年だということが分かると何かにつけて馴れ馴れしく話しかけてくるようになった。

総司も決して無口な方ではない。
中の良い隊士や心を許している同士であれば下らないことを話して大笑いをすることもあるし、どちらかといえばそういう明るい雰囲気の人柄の方が好きだった。

しかし今は状況が状況だ。

いなくなったセイが無事なのか、それさえもはっきりしない中、下らない話を次から次に振られるのは総司の心を苛つかせたが、もしかしたら藤田も気を使っているのかもしれない、と考え会話には適当に返事をしながら先を急いだ。

気が急いてしまって予定よりも大分早く一日目の宿に到着した総司が、もう少し歩きたい、と藤田に告げると
「駄目ですよ。山崎さんたちと宿で合流するって約束ですから。」
とピシャリと止められ、総司はまた少し苛つくが、きちんと約束を守るあたりしっかりした人物なのかもしれない、と思い直すことにした。

総司たちが宿について二刻ほど遅れて山崎たちが到着した。
何処で敵が見ているか分からない状況で直接接触するのは危険だ、という事で総司は適当に文を書いて宿の者に山崎に渡すよう頼んだ。
藤田が風呂に入りに行き一人部屋に残された総司はゴロンと横になり天井を見つめる。
そっと瞳を閉じればいるはずのないセイの声が聞こえてくる。

『助けて、先生』

その大きな瞳は涙で濡れてはいない。
ただ、寂しそうな、冷たい色をしていた。


総司も軽く湯を浴びて食事を済ませると藤田は旅の疲れからか直ぐに寝てしまった。
またあのお喋りに付き合わされるのは正直うんざりだったので総司はホッと一息付きながら窓から外を眺める。
もう一年以上京にいるとはいえ此方の方面に出向くのは初めてで都とは程遠い田舎くさい景色がなんとなく生まれ故郷を思い出させてくれて安心する。
窓から冷たい風が吹き込んできて、そのせいなのか奥の部屋で寝ている藤田が一つくしゃみをした。
総司はそっと窓を閉めると荷物の中から朝、山南に貰った『大江山』の本を取り出す。
あまり活字が得意ではないが全くといっていいほど狂言の内容を覚えていなかったので少し気になっていたのだ。

狂言には台詞がない。演者の動きと音のみで物語が表現される。
演者が被る面は幾つもあり『鬼の面』一つにしても数種類の表情が存在するのだ。

『大江山』の内容は大体が『鬼退治』をする源頼光の英雄談であり『鬼』は『悪者』として描かれている。
しかし総司には山南が言っていたある言葉が気になっていた。

『『大江山』には、鬼たちは最初は比叡山に棲んでいて、京の民に騙されて居場所を追われてしまい大江山に移り住んだ、という話もあるんだ』

元々住んでいた土地を人間に奪われた鬼たち。
それがどうしても引っ掛かってしまう。
それが何故なのか、どういう意味を持つのか今の時点では自分でも分からないのだけれど。

総司は一つ溜め息を吐くと敷いてあった布団に潜り込む。
身体は疲れていたけれど、またきっと深くは眠れないのだろう。
そんな事を考えながらもそっと瞳を閉じた。


※※
『...せい。沖田先生..助けて...』
何処からか聞こえるのはセイの声。
『神谷さん?どこにいるのですか?助けに来ましたよ?』
総司は必死で叫ぶが声がうまく出てこない。
ああ、また夢を見ているのだろう、と頭の中で理解した。

以前見た夢のように何処からか水の音がする。
総司はその音を頼りにセイの姿を探してさ迷う。
すると細く、長い川に辿り着いてそこで着物を洗っているセイを見つけた。
『神谷さん?そこで何をしているのですか?』
『着物を洗っているんです。』
泣きながらそう答えるセイの手の中には真っ赤に染まる着物が何枚もあった。
『なぜ、そんな赤い色を...?』
総司の背中に嫌な汗が流れる。
『...洗っても洗っても落ちないんです。血が...。』
セイはそう答えるとびしょ濡れの着物を絞るでもなく持ち上げて山へと歩いていく。
セイの歩く先にポタポタと着物から滴る真っ赤な水滴がまるでセイの血のようで総司は慌てて声をかける。
『神谷さん!そっちへ行っては駄目です!山には鬼がいるんです!』
必死にセイを追いかけようとするが足が全く動かない。
早く引き留めなくては、と総司が手を伸ばそうと力を込めた時、セイがふ、と此方を振り返った。
『...鬼?...鬼は、私たちでしょう?』
そう話すセイの瞳は渇いていて、返り血を浴びたかのような水滴が滴るその表情は確かに、微笑んでいたー。
※※


総司が目を覚ますともう藤田は着替えを済ませて出かける支度を済ませていた。
「沖田先生、お早うございます。」
爽やかそうに笑う藤田を見て総司は少しホッとしたように微笑む。
ああ、やはり夢だったのだ、と頭を抱えながら先程のセイの表情を思い出す。

『鬼は私たちでしょう?』

そう問いかけるセイは、まさに壬生狂言で見た鬼の面そのもののようだった。
そうだ。
あの娘は、セイは女子である前に立派な新選組隊士だ。
京の都では鬼と呼ばれ恐れられる存在なのだ。

その事を、犯人たちは分かっていてこの事件を作り出したのだろうかー?

もやもやとした不安のようなものが総司の心を蝕んでいく。
とにかく、先を急いだ方がいい。
総司は無言で布団から抜け出すと旅支度もそこそこに「待ってください」と焦る藤田を置いていく勢いで宿を飛び出した。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※
時が経つのは早いですね..。三話更新も遅くなりました(>_<)そしてまた短くてスミマセン。。romeo様に教えて頂きYou◯ubeで壬生狂言を観てみました!「大江山」は観れなかったのですがやっぱりさっぱり全然内容も何してるのかも分からなかったです(*´∇`*)いやはやでも伝統芸能というのは良いものですよね。
前雑記にも拍手ポチポチコメントもありがとうございました。次回にお返事書かせていただきますね!
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