FC2ブログ

◎短編

★俤

 ←日野新選組まつり!そしてお返事 →作品紹介
沖田総司没後150年に向けて
沖田先生本人は勿論、沖田先生に関わった人達皆の幸せを願って。





※※
『東京へ行くことになった』
かつての上司から東京に住むセイの元にそんな文が届いたのは初夏の爽やかな風から梅雨のじめりとした風に変化したころだった。

戊辰戦争が終結して「江戸」が「東京」と改名されてもう六年もたつのに中々「東京」という地名には慣れない。
それでもちょうどその頃に産まれた我が子にしてみれば「江戸って何ですか?」と聞かれてしまうのだから時代の流れというものは恐ろしくもあり頼もしくもある、とセイは思う。
総司亡き後、まるで本当の家族のように面倒を見てくれたのは松本法眼の妻であるトキで、今もセイはトキの家の近くで医者の仕事をしながら一人で総司の忘れ形見である一人息子を育てている。

新選組の皆に最後に会ったのはいつだったのだろうか。
総司がまだいたころは何人かお見舞いに来てくれた人もいた。
しかし時勢が変わって新選組が完全に「逆賊」となってしまってからはパタリとセイの元へ誰も来なくなった。
それはセイを見捨てたわけではなくて元新選組の隊士が来ることでセイにも危険が及ぶからだ、ということはセイにも十分伝わっていた。
それでも当時よくしてくれた人物はたまに手紙のやり取りをしていて今回こうして連絡をくれた元上司もその一人だった。
「斎藤先生..お元気かなぁ..」
セイがポソリと呟くと横で熱心に手習いをしていた息子が首を傾げた。
「斎藤先生?どなたですか?」
コトンと筆を置いて興味津々な顔でセイが手にしている文を覗いてくる。
セイはその可愛らしい息子の頭を撫でる。
「父上のお友達ですよ。とても強いんです。あ、今は藤田先生って仰るのかな..?」
セイは封筒の裏側の差出人の名前を見て瞳をパチパチさせた。
斎藤から山口に変わり、次は藤田。
目まぐるしく変化する時代を象徴するような名の変化にふ、と溜め息が溢れた。
「お父上のお友達なら会うのが楽しみですね!」
ニコニコと嬉しそうに笑う息子をセイはぎゅう、と抱き締める。
「そうね。あなたもお返事、書く?」
セイの言葉に、はい!と瞳を輝かせる幼い息子。
まだ習いたての拙い文字で、まだ会ったことのない父親の友人へ向けて一生懸命に文を書きはじめた。


※※
季節は巡り、夏。
セイが慌ただしく家の掃除や料理などもてなしの準備をしていると玄関から懐かしい声が聞こえた。
(兄上だ!)
嬉しさと懐かしさから思わず廊下を走ると自分よりも超特急で走る息子に途中で抜かされてしまった。
ガラリと玄関の戸を開けるとそこにはあの頃と何も変わらない落ち着いた男の姿。
「斎藤先生..じゃなかった、藤田先生、お久しぶりです!お待ちしておりました!」
数年ぶりの再会を涙目で喜ぶセイを他所に横から元気よく息子が挨拶をする。
「藤田先生、父上と母上がお世話になりました!」
息子の言葉に思わずセイは吹き出してしまう。
「ここでは斎藤、で構わん。..それにしても、こんなに大きくなっていたとはな。」
と斎藤は無邪気に笑う息子の頭を撫でる。
「はい、数えで七つになりました」
セイが答えると、そうか、と斎藤が頷いた。

もう、そんなに時が経っていたのかー。

離れていた時を思うと同時に一緒に過ごしたあの青春期を思い出して、少し胸が痛んだ。


※※
世話しなく自分をもてなすセイを横目に、初めて会ったばかりとは思えないほどベッタリとなついている少年の顔をじっと見つめる斎藤。
セイが用意してくれた酒をグッと呑みながら
「本当によく似ているな」
としみじみしながら呟く。
凛、とした瞳も、黒くて真っ直ぐな髪も、色の白さも、どこをとってもセイにそっくりだ。
親子とはこんなにも似るものなのか、と感心しているとセイが台所から顔を出して話しかけてきた。
「そうなんですよ!本当に沖田先生にそっくりで!」
いや、そっちではない、と言いたかったが言葉を挟む間もなくセイが興奮したように続ける。
「この前なんて私が診療で帰りが遅くなるからって法眼の..あの松本先生のお宅にこの子を預かってもらったんですけどね」
よっぽど聞いてほしかったのかセイは前掛けで手を拭きながら斎藤の横へちょこん、と座った。
「トキさんだけならおやつも加減してくれるんですけど丁度その日は松本先生もいたみたいで、おやつだ、土産だって何だかんだでお饅頭を10個も食べたんですよ!」
「ほう。そう言えば沖田さんも男のくせに甘いものが好物だったな」
そうそう、とセイが勢いよく頷く。
「そんなんじゃ夕飯食べれないじゃないですかって松本先生に怒ったら『きちんと飯もおかわりしたぞ~』ですって!」
もう、人様の家で恥ずかしい、とセイが溜め息をつく。
困った顔をしながらも斎藤には全く怒っているようには見えない。
むしろその様子を喜んでいるかのようだ。
「なるほど。大食漢が沖田さんに似たのか」
斎藤が頷きながら酒を煽ると、でもね、とセイがにっこり笑う。
「良いところも似ているんですよ。この前ね、外で遊んでいるときにこの子よりも一つか二つ小さな女の子が一人で泣いていたんです。そしたら私が何も言わなくても駆け寄って『大丈夫?』って声をかけてあげて」
沖田先生に似て優しいんです、とニコニコ笑うセイに斎藤がピクリと眉を吊り上げる。
「..そういえば沖田さんも『天然タラシ』だったな」
斎藤の言葉にセイがウッと低い声を出した。
たしかに、まあ、とブツブツ呟きながら、でもね、とまた気を取り直して話を続ける。
「やっぱり剣の腕は引き継いでいるみたいで。この辺も大分道場が減ってしまったので結局私が時間のあるときに相手をしてやっているんですけど..」
そこまで話してセイが思い出したように手を叩いた。
「そうだ!斎藤先生、是非この子に稽古をつけてやってください!」
突然の申し出にかなり酒を呑んでいた斎藤は一瞬躊躇するが(やってみたい)という気持ちの方が勝る。
「よし、いいだろう」
そう言って立ち上がるとセイが嬉しそうに部屋の奥から竹刀を持ち出してきた。


あまり広くない庭先で竹刀を構える。
背丈が自分の半分ほどしかない相手と剣を交えるのは新選組で子どもたちに稽古をつけてやった時以来だろうか。
「いつでもかかってこい」
低い声でそう伝えるとじりじりと間合いをはかりはじめる少年。
少し肩が張りでたような独特の構え。
先ほどまでの無邪気な笑顔とはうってかわってまるで冴えた月のような瞳。
剣を構える少年のその姿はまるで総司そのものだった。
「沖田さん..」
斎藤が総司の幻影を見ていたその一瞬の隙をついて少年がエイッと気合いを吐く。
その声に我に返った斎藤が彼の一太刀を竹刀で受けた。
「いいぞ」
斎藤に褒められて少年が笑顔を溢す。
そうだ。
あんたも剣を振っているとき、そんな顔をしていたなー。

竹刀がぶつかり合う心地よい音を聞きながら、いつのまにかセイが涙を流していた。
それを見ないふりをして、二人は暫く無言でぶつかりあった。

「ありがとうございました!」
二人とも汗だくになったところでセイが手拭いを差し出して稽古は終了した。
すっかり涙が乾いた瞳でセイが斎藤に、どうでした?と問いかける。
斎藤は冷たく濡れた手拭いで頭まで拭きながら、そうだな、と一つ大きく頷いた。
「なかなかいい筋をしている。神谷譲りの機敏さと沖田さん譲りの勘のよさが際立っている」
斎藤の言葉にきゃっきゃとはしゃぐ二人。
斎藤は改めて少年と向き合うと
「母上のことを、しっかり頼むぞ」
と肩を抱いた。
少年は斎藤を真っ直ぐに見つめて大きく頷く。
「はい!母上は私が護ります!」
その言葉を聞いて、まだ若かった頃、何時だかの総司と斎藤の月夜の決闘を思い出してしまい思わず大人二人で顔を見合わせて吹き出してしまう。
「なんで笑うんですかぁ」
情けない声を出す息子が面白くてますます笑いが止まらなくなってしまった。
二人で笑いながら、いつの間にかセイはまた、泣いていた。


※※

楽しい時間はあっという間に過ぎて別れの時がやってきた。
玄関まで見送りに来たセイに、幸せそうで良かった、と斎藤が告げるとセイは、皆さんのお陰です、とにっこりと笑った。
「斎藤先生を初め、松本先生やトキさんや気にかけて助けてくださる皆さんのお陰で私はとても幸せなんです」
そうか、と返事をしながら、それは違うだろう、と斎藤は思う。
隣で笑っている少年の存在そのものがセイを強く美しくさせ、そして何処かに残るセイが心から愛した人の面影が彼女をこんなにも幸せにさせているのだ。
では、と玄関の戸を開けると、斎藤先生、とセイが後ろから呼び掛けた。
「なんだ?」
斎藤が振り向く。
「あの、実は来週沖田先生の七回忌があるんです。大したことはやらないんですがこの子とトキさんとお墓参りに行くので、あのもし良ければ..」
来てほしい、とはハッキリとは言われなかった。
斎藤の今の立場を一応気にしているのだろう。
『元新選組』という立場がどれだけ危ういものか、セイも痛いほどに実感しているのだ。
「..分かった。なんとか都合をつけよう」
斎藤が頷くとセイがホッとしたように微笑んだ。
「あの、良ければ次回は是非奥さまもご一緒に」
セイの申し出に斎藤がちいさく頷く。
本当は今日も一緒にどうか、と誘われていたのだが妻の方に「久しぶりの再会なのだから一人で行け」と逆に怒られてしまったのだ。
子どもがいるとはいえ、女性の家に主人を一人で行かせるなど、いい気持ちではなかっただろうに、そんなことを言われた、とセイに話すと「素敵な奥様ですね」と感心してくれた。
「では、また来週」
「ああ」
「先生、またね」
斎藤が名残惜しい気持ちで後ろも振り向かずにその場を去ると、「母さま今日の夕飯はなんですか?」「あんなに食べたのにまだ食べるのですか?」と可愛らしい会話が聞こえてきて思わず吹き出してしまった。


来週の墓参りには妻を連れていこう、と斎藤は改めて思う。
墓前に向かって、俺もこんな幸せになってやったぞ、と得意気に教えてやろう。
そんなことを考えると昔の総司とのくだらないやり取りを思い出して何だか笑えてきた。
きっと、どんなに自慢したところで此方の気持ちには何一つ気づかずに総司はただ笑って『おめでとう』と祝ってくれるのだろう。
満面の笑顔の総司が瞼の裏に思い浮かんで斎藤は思わず空を見上げた。
そうしないと熱くなった目頭から涙が溢れ落ちそうだった。

斎藤がとぼとぼと一人、夕暮れの道を歩いていると家路を急ぐ子どもたちの声が聞こえてきてふ、と目をやる。
その楽しそうな笑い声と、家で優しく子どもたちを迎える母親たちの顔を見ながら、そうだ、とあることを思い付く。
総司にもうひとつ、伝えてやらなければいけないことがある。

『神谷を幸せにできるのはやはりあんただけだ』

悔しいけれど、そう教えてやろう、と斎藤は空に向かって微笑んだ。


関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png ☆桜の時
もくじ  3kaku_s_L.png  ★白南風
もくじ  3kaku_s_L.png ◆『恋情』
もくじ  3kaku_s_L.png ◆青い春
もくじ  3kaku_s_L.png ◆黒煙
もくじ  3kaku_s_L.png ◆鬼の棲処
もくじ  3kaku_s_L.png ◆零れる花
もくじ  3kaku_s_L.png ☆つぐない
もくじ  3kaku_s_L.png ★雫
もくじ  3kaku_s_L.png ☆風の彩
もくじ  3kaku_s_L.png ◆黄昏月
もくじ  3kaku_s_L.png ◆鬼神
もくじ  3kaku_s_L.png ★☆落花流水
もくじ  3kaku_s_L.png ◆溜め息
もくじ  3kaku_s_L.png ★向日葵
もくじ  3kaku_s_L.png 閨(R18)
もくじ  3kaku_s_L.png ◎短編
もくじ  3kaku_s_L.png ❤宝物❤
もくじ  3kaku_s_L.png 風光るについて
もくじ  3kaku_s_L.png 新撰組について
もくじ  3kaku_s_L.png リンクについて
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【日野新選組まつり!そしてお返事】へ
  • 【作品紹介】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【日野新選組まつり!そしてお返事】へ
  • 【作品紹介】へ